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50代後半になると、定年がはっきり見えてきます。このまま定年まで勤めて再雇用に進むのか、定年前に転職するのか。考え始める人が増える時期ですが、実際に動く人は多くありません。
理由のひとつは、退職金や年金への影響がよく分からないことです。もうひとつは、日々の仕事に追われて、転職先を探す時間がとれないことです。私自身もそうでした。
この記事では、定年前の転職で押さえておきたい制度面の影響と、転職か再雇用かを決めるための検討の順番を整理します。あわせて、私が再雇用を選んだときの実情と、そこから考えた「検討する余裕がなくなる前にやっておくこと」をまとめます。
定年前の転職で直面する3つの壁
50代後半の転職には、若い頃の転職とは違う壁があります。大きく分けると3つです。
年齢の壁
求人の多くは年齢を明記していませんが、実際には応募先の社員構成や求める役割によって、50代後半の応募が通りにくいことがあります。管理職経験が長い人ほど「同じ待遇」を求めやすく、応募先と条件が合わない場面も出てきます。
退職金と年金の壁
定年まで勤めれば受け取れるはずの退職金が、自己都合退職で減ることがあります。年金や雇用保険の扱いも、辞める時期によって変わります。この部分は後の節で整理します。
時間の壁
50代後半は、職場で責任のある立場にいる人が多く、転職活動にまとまった時間をとりにくい時期です。気づけば定年の1年前になっていて、再雇用の案内が届く、というのが現実的な流れです。
3つの壁のうち、年齢の壁は自分では動かせません。退職金・年金の壁は「知れば判断できる」ものです。そして時間の壁は、早く手を付けるほど小さくなります。
退職金への影響|自己都合と定年退職の違い
定年前に転職する場合、いちばん気になるのが退職金です。確認する順番は次のとおりです。
退職金規程を手元に置く
退職金の計算は会社ごとに違います。まず自分の会社の退職金規程を確認してください。多くの会社では、退職理由が「定年」か「自己都合」かで支給率が変わります。自己都合のほうが低く設定されているのが一般的です。
勤続年数の区切りも確認しておきます。「勤続30年」など、節目を超えると支給率が上がる規程では、辞める時期が数か月違うだけで金額が変わることがあります。
定年と自己都合の差を数字で見る
規程が手元にあれば、総務や人事に「定年まで勤めた場合」と「今年度末に自己都合で退職した場合」の試算を頼めます。会社によっては、退職金の試算を一定の年齢以上なら受け付けてくれます。頼みにくい場合は、規程の支給率表に自分の勤続年数と基本給を当てはめれば、概算は出せます。
税金の扱いも確認する
退職金には退職所得控除があり、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。転職先でも退職金制度がある場合、勤続年数は転職先で新たに数え始めることになります。一度に受け取る退職金の税負担は、国税庁のサイトで最新の計算方法を確認するか、税務署に相談してください。制度は変わることがあるので、古い情報で判断しないようにします。
退職金の差額がはっきりすると、「転職先の年収がいくらなら見合うか」の目安が立ちます。これが定年前の転職を判断する、いちばん具体的な材料になります。
年金・雇用保険への影響
退職金の次に確認するのが、年金と雇用保険です。
年金|空白期間を作らない
会社員として働いている間は厚生年金に加入しています。在職中に転職先を決めて、辞めた翌日から次の会社に入るなら、年金の空白期間は生まれません。一方、いったん退職して仕事を探す場合、その間は国民年金への切り替えが必要になります。
年金額に直接影響するのは、厚生年金に加入していた期間と、その間の給与です。転職で給与が下がれば、その分だけ将来の年金額も少し変わります。ただし、50代後半の数年間の差が年金額にどの程度出るかは、人によって違います。年金事務所で「ねんきん定期便」をもとに試算してもらうのが確実です。
雇用保険|在職中の転職なら使わない
在職中に転職先を決めれば、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)は使いません。退職してから探す場合は受け取れる可能性がありますが、自己都合退職には給付制限がある場合があります。日数や条件は改正されることがあるので、ハローワークで確認してください。
60歳以降の給与が下がった場合に関係する「高年齢雇用継続給付」については、別の記事で整理しています。
年金をもらいながら働く場合
60歳を過ぎてから働きながら年金を受け取る場合の仕組みは、こちらの記事にまとめています。定年前の転職を考える段階では、まだ先の話ですが、転職先での働き方を考えるときに関係してきます。
転職か再雇用かを決める検討の順番
制度面の影響が分かったら、次は「自分の場合はどうするか」です。迷ったまま時間が過ぎないように、順番を決めておきます。
①勤め先の再雇用条件を先に確認する
転職を考える前に、今の会社の再雇用制度を確認します。再雇用後の給与水準、契約期間、仕事内容、65歳以降の扱いです。これが比較の基準になります。基準が分からないまま求人を見ても、良いのか悪いのか判断できません。
②自分のスキルを棚卸しする
次に、自分が何をできるかを書き出します。50代後半の転職では、職務経歴を長く並べるよりも「何ができて、何を任せられるか」を短く言えることのほうが大切です。棚卸しの手順はこちらにまとめています。
③求人を「見るだけ」から始める
在職中に転職活動を始めるなら、まず求人を見るだけで十分です。応募しなくても、50代後半を受け入れている求人がどのくらいあるか、給与の相場はどのくらいかが分かります。見るだけの段階なら、職場に知られる心配もありません。
④条件を表にして比べる
再雇用と転職候補を、同じ項目で並べて比べます。項目は次のとおりです。
- 60〜65歳の年収(再雇用後の給与/転職先の給与)
- 退職金の差額(定年退職と自己都合退職の差)
- 仕事内容(続けたい仕事か、新しい仕事か)
- 通勤時間と働く時間
- 65歳以降の見通し(再雇用の延長制度/転職先の定年)
ここまで並べると、「転職で年収が○万円上がっても、退職金の差額で相殺される」といった判断ができるようになります。感覚で決めるより、迷いが減ります。
私は再雇用を選びました
私自身は、定年前に転職する道を選びませんでした。再雇用です。
理由は単純で、転職先を検討している余裕がなかったからです。定年前の数年間は、仕事の責任が重くなる時期でした。求人を見る時間も、自分のスキルを整理する時間もとれないまま、気づけば再雇用の手続きが始まっていました。
再雇用を選んだこと自体を後悔しているわけではありません。ただ、「比べたうえで再雇用を選んだ」のではなく「比べる余裕がなくて再雇用になった」というのが正直なところです。
この経験から言えるのは、定年前の転職は「転職するかどうか」より前に、「比べられる状態になっているか」が分かれ目だということです。50代後半のまだ余裕があるうちに、退職金の試算をとり、再雇用の条件を確認し、求人を見ておく。それだけで、定年の1年前に「転職という選択肢もあったのに、検討もしなかった」という状態は避けられます。
転職しないと決めるのも、立派な判断です。ただ、決めずに流れてしまうのとは違います。
50代後半から始めるなら、いつ何をするか
「検討する余裕がなくなる前に」を具体的にすると、次のような逆算になります。時期は目安なので、自分の定年年齢に合わせて読み替えてください。
定年の3年前|情報を集める
- 退職金規程と再雇用制度の内容を確認する
- 退職金の試算を総務・人事に頼む(頼めない場合は規程で概算)
- ねんきん定期便を確認し、必要なら年金事務所で試算してもらう
- 求人サイトに登録して、50代後半向けの求人を見るだけ見る
この段階では、何も決めなくて構いません。「比べる材料」を集めるだけです。
定年の2年前|転職の可能性を試す
- スキルの棚卸しをして、職務経歴書の下書きを作る
- 気になる求人があれば、応募書類を作ってみる(出すかどうかは別)
- 再雇用と転職候補を、条件表で並べてみる
ここで「転職先の条件が再雇用を上回らない」と分かれば、再雇用に進む判断が固まります。逆に、良い条件の求人があれば、応募を考えます。
定年の1年前|決める
- 転職するなら、在職中に内定をもらってから退職日を決める
- 再雇用にするなら、再雇用の手続きと、65歳以降の見通しを確認する
定年の1年前は、会社から再雇用の意向確認が来る時期です。ここまでに材料が揃っていれば、意向確認に対して「比べたうえで」答えられます。
65歳で再雇用が終わった後の仕事探しについては、別の記事で逆算を整理しています。定年前の逆算と合わせて読むと、60代全体の見通しが立ちます。
書類と面接の準備は60代向けの記事が使える
定年前の転職で実際に応募する段階になったら、書類と面接の準備が必要です。50代後半の場合、応募先が求めるのは60代の転職とほぼ同じ「経験をどう活かすか」です。次の記事がそのまま使えます。
求人の探し方については、ハローワーク・求人サイト・シルバー人材センターの使い分けをこちらにまとめています。
まとめ
定年前(50代後半)の転職で押さえる点を整理します。
- 退職金は、定年退職と自己都合退職で支給率が違うことが多い。規程を確認し、差額を数字で出す
- 年金は在職中の転職なら空白期間が生まれない。雇用保険の給付制限や年金額の試算は、ハローワーク・年金事務所で確認する
- 決める順番は、再雇用条件の確認→スキルの棚卸し→求人を見るだけ→条件表で比較
- 私は余裕がなくて再雇用になった。比べたうえで選ぶには、定年の3年前から材料を集めておく
定年前の転職は、する・しないの前に「比べられる状態かどうか」で決まります。余裕があるうちに、退職金の試算と再雇用の条件だけでも確認しておいてください。


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