転職を考え始めると、どこかの段階で必ず出てくるのが「職務経歴書」です。
履歴書ならなんとなく書けても、職務経歴書となると、何をどう書けばいいのか急に手が止まる。私自身、もし自分が書くとしたら、と想像してみたとき、まず最初に浮かんだのが「これは一体、誰に向けて、何を書く紙なのだろう」という素朴な疑問でした。
実は私は、以前に人事に関わる業務に携わっていた時期があります。応募してくる方の書類を、受け取って読む側にいたことがあるのです。だからこそ、いざ自分が書く側に立って考えてみると、見えてくるものがありました。
今日はその、「見る側」にいた経験を思い出しながら、60代が職務経歴書をどう書けばいいのかを、自分なりに整理してみたいと思います。
その前に一つだけ。職務経歴書は、転職活動の中の「一工程」です。以前、転職活動の準備には順序がある、という話を整理した記事を書きましたが、職務経歴書を書くのは、その順序でいえば中盤にあたります。いきなり書類から手をつけて行き詰まるより、まずは全体の流れを押さえておくと、気持ちがずいぶん楽になります。
そのうえで、なお一つお断りしておくと、私は今、実際に転職活動をしているわけではありません。あくまで「もし書くとしたら」という前提で、頭の中で組み立ててみた、という話としてお読みいただければと思います。
職務経歴書と履歴書は、何が違うのか
まず、ここを押さえておくと、後がずいぶん書きやすくなります。
履歴書は、いわば「経歴の証明書」です。いつ、どこで、何をしてきたか。事実を時系列で、形式に沿って並べる書類です。履歴書の書き方は別の記事で整理しています。
一方、職務経歴書は「経験の説明書」だと、私は考えています。何をしてきたかという事実だけでなく、「その経験を通じて、自分は何ができるようになったのか」「それが、応募先でどう役に立つのか」までを、自分の言葉で説明する書類です。
ハローワークが配布している「職務経歴書の作り方」というパンフレットでも、職務経歴書の目的は「実務能力のアピール」にあると説明されています。つまり、ただ経歴を並べるのではなく、「自分にはこういう力があり、貢献できます」と伝えることが核心だ、ということです。
ここで私が付け加えたいのは、その「アピール」が成り立つためには、まず「相手に伝わる」ことが前提になる、という点です。どれだけ立派な経験があっても、相手にその価値が伝わらなければ、アピールにはなりません。
そして、この「伝わるように書く」という作業こそ、職務経歴書のいちばん難しく、いちばん大事なところだと、私は思っています。
見る側は、職務経歴書のどこを見ているか
ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。
書類を受け取って読む側にいたとき、私が無意識に探していたのは、実は「すごい実績」ではありませんでした。
もちろん、華々しい実績があれば目は引きます。けれど、たくさんの書類に目を通していると、だんだん分かってくることがあります。読み手が本当に知りたいのは、「この人が過去に何をしたか」よりも、「その経験が、うちの仕事で何の役に立つのか」なのです。
たとえば「営業部で部長を務めた」と書いてあっても、それだけでは、読む側は何を期待していいのか分かりません。けれど「営業部で、若手の育成と顧客折衝を担当していた」と具体的に書いてあれば、「ああ、人を育てられる人なんだな」「交渉ごとを任せられそうだ」と、こちらの仕事に引き寄せて読むことができます。
読む側は、書かれた経歴を、無意識のうちに「うちで言えば、何ができる人か」に翻訳しながら読んでいます。だとすれば、その翻訳を、書く側があらかじめやっておいてあげる。それがいちばん親切で、いちばん伝わる職務経歴書なのではないか。私はそう考えるようになりました。
そしてもう一つ、見る側にいて強く感じたことがあります。それは、「正直に整理された経歴」のほうが、結局は信頼される、ということです。
無理に話を大きくした書類は、読んでいるとどこか不自然で、面接で深掘りすればすぐに分かります。逆に、派手さはなくても、やってきたことが正直に、分かりやすく整理されている書類は、それだけで「この人は誠実そうだ」という印象を残します。盛る必要はないのです。むしろ、盛らないことが強みになります。
60代・シニアの職務経歴書、基本の構成
では、具体的にどう書くか。ハローワークの様式などを参考にすると、職務経歴書は大きく次の4つのブロックで考えると整理しやすくなります。
① 職務要約
冒頭に、これまでの職務経歴を3〜5行程度でまとめます。いわば「私はこういう経験を積んできた人間です」という自己紹介です。読む側は、まずここに目を通して全体像をつかむので、ここが分かりにくいと、その先を丁寧に読んでもらえません。
② 職務経歴
ここが本体です。どの会社で、どの部署で、どんな仕事をしてきたかを書いていきます。基本は時系列ですが、60代の場合、経歴が長いぶん、すべてを同じ熱量で書くと、かえって要点がぼやけます。応募先に関係の深い経験を厚めに、関係の薄いものは簡潔に。メリハリをつけるのがコツです。
③ 活かせる経験・スキル
これまでの経験から、応募先で活かせそうな力を抜き出して書きます。後ほど触れますが、ここが「翻訳」の見せ所です。
④ 自己PR
最後に、自分の人柄や仕事への姿勢を、エピソードを交えて伝えます。長く書きすぎず、要点を絞るほうが、かえって印象に残ります。
履歴書の志望動機欄と、この自己PRで同じことを2回書かないための分担は、60代の志望動機の書き方と例文で整理しています。
形式の細部にこだわりすぎる必要はありません。大事なのは、この4つのブロックを通して「自分は何ができて、応募先でどう役に立てるか」が、読む側にすっと伝わることです。
「翻訳」のひと手間|経験を相手の言葉に置き換える
以前、ポータブルスキルについて書いた記事(経験を「翻訳」して持ち運ぶ)で、60代の強みは「新しいスキルを身につけること」ではなく、「これまでの経験を、別の場所でも通用する形に翻訳すること」だとお伝えしました。
職務経歴書は、まさにこの「翻訳」を文章にする作業です。
たとえば、長年「総務の仕事をしていた」という事実があったとします。これをそのまま書いても、応募先には「総務の人」としか伝わりません。けれど、その中身を分解してみると、こうなります。
- 社内の手続きを整理し、誰でも分かる形に仕組み化していた → 「業務改善」「マニュアル化」の力
- いろいろな部署の間に立って、調整役を担っていた → 「社内調整」「関係構築」の力
- 新しく入った人に、仕事のやり方をかみ砕いて教えていた → 「育成」「分かりやすく伝える」力
同じ「総務の仕事」でも、相手の言葉に翻訳すると、これだけの力が見えてきます。まず自分の経験を棚卸しして材料を集め、それを今度は「相手に伝わる言葉」に置き換えていく。それが、職務経歴書を書くという作業の正体だと思います。
ここで難しいのは、自分にとっては「当たり前にやっていたこと」ほど、価値に気づきにくいということです。私自身、振り返ってみて初めて「ああ、あれも一つのスキルだったのか」と気づいたことが、いくつもありました。だからこそ、誰かに話を聞いてもらいながら整理するのも、一つの方法だと思います。
60代の職務経歴書テンプレート(記入例)
ここまでの話を、実際の形にしてみます。
以下は、長く1社に勤め、60歳で定年退職した総務・事務職の方を想定した記入例です。人物も会社も架空で、私自身の経歴でもありません。先ほどの「翻訳」の節で挙げた総務の例を、そのまま4つのブロックに落とし込んだものだと思ってください。
そのまま使うものではなく、会社名・年月・担当した仕事をご自身のものに置き換えて、「型」として使っていただければと思います。
記入例:長く1社に勤め、定年退職した場合
職務経歴書
令和○年○月○日現在
氏名 ○○ ○○■ 職務要約
株式会社○○に昭和○年に入社し、約38年間、主に総務部門で勤務してまいりました。社内手続きの整備と手順書の作成、各部署との調整、備品・施設の管理、新入社員への業務指導などを担当し、令和○年3月に定年退職いたしました。部署と部署の間に立ち、物事を滞りなく進めることを長く仕事としてきました。■ 職務経歴
株式会社○○(昭和○年4月〜令和○年3月)
事業内容:○○の製造・販売 従業員数:約○○名昭和○年4月 入社 営業部に配属
受注処理、納品書・請求書の作成、取引先からの電話対応を担当平成○年4月 総務部に異動
備品・消耗品の発注と管理、社用車・施設の管理
社内行事(入社式・健康診断・防災訓練)の運営平成○年4月 総務部 主任
各種社内手続き(経費精算・出張・慶弔)の流れを整理し、申請書と手順書を作成
各部署からの問い合わせ窓口、部署間の調整平成○年4月 総務部 係長
総務部員○名の業務分担の管理と指導
新入社員向けの社内ルール説明と、配属後の相談対応
取引業者(清掃・警備・設備保守)との契約更新と折衝令和○年3月 定年退職
■ 活かせる経験・スキル
・業務改善・マニュアル化:社内手続きの流れを整理し、誰が見ても分かる手順書にまとめてきました。
・社内調整・関係構築:各部署の間に立ち、言い分の違いを聞いて落としどころを探る役割を長く担ってきました。
・育成・分かりやすく伝える:新入社員や若手に、仕事のやり方をかみ砕いて説明してきました。
・パソコン:Word・Excelでの書類作成、Excelでの備品台帳・名簿の管理(基本的な関数・並べ替え程度)■ 自己PR
総務の仕事は、うまくいっているときほど気づかれない仕事です。だからこそ、手続きが止まらないように先回りして整え、困っている人がいれば自分から声をかけることを心がけてきました。一つひとつは小さな仕事ですが、それを長く、丁寧に続けてきたことが私の強みだと考えています。
定年を迎えた今も体力と意欲に問題はなく、新しいやり方を教わることに抵抗はありません。経験のある総務・事務の分野で、貴社の仕事が滞りなく回るよう、裏方として力を尽くしたいと考えております。
見本の中で「翻訳」になっているのは、主に次の3か所です。
- 職務経歴の「手続きの流れを整理し、申請書と手順書を作成」が、活かせる経験では「業務改善・マニュアル化」になっています。やったことは同じで、言葉を相手側に寄せただけです。
- 「問い合わせ窓口、部署間の調整」が、「社内調整・関係構築」になっています。
- 「新入社員向けの説明、相談対応」が、「育成・分かりやすく伝える」になっています。
もう一つ、数字を盛っていないことにも目を向けてください。「コスト○%削減」のような実績がなくても、何を、どのくらいの期間、どんな立場で続けてきたかが具体的に書いてあれば、読む側は自分の職場に引き寄せて想像できます。無理に数字をひねり出すより、そのほうが結局は信頼されると思います。
再雇用で働いている場合
定年後に同じ会社で嘱託として働いている方は、職務経歴の最後の部分だけを差し替えます。
令和○年3月 定年退職
令和○年4月 同社にて嘱託社員として再雇用
総務部にて、備品管理と社内手続きの問い合わせ対応を担当(週○日勤務)
現在に至る
再雇用後は担当が狭まることが多いので、「今は何をしているか」を1〜2行で正直に書けば十分だと思います。定年前の経歴がきちんと書いてあれば、力はそこで伝わります。
パートに応募する場合
パートやアルバイトの求人では、職務経歴書を求められないことも多いですし、求められた場合でも、上の見本をそのまま出すと重たく感じられるかもしれません。その場合は、職務要約と活かせる経験・スキルの2つだけに絞った簡略版で足りると思います。
■ 職務要約
株式会社○○にて約38年間、主に総務部門で勤務し、令和○年3月に定年退職いたしました。備品管理、社内手続きの整備、各部署との調整、新入社員への業務指導を担当してきました。■ 活かせる経験・スキル
・事務処理全般(Word・Excelでの書類作成、台帳管理)
・電話・来客対応、社内外との調整
・新しく入った人に、仕事を分かりやすく説明すること
応募先の仕事に近い部分だけを残して、あとは思い切って削る。これも「相手に合わせる」という意味では、翻訳の一つだと思います。
なお、職務経歴書と対になる履歴書の書き方は、別の記事で整理しています。
60代がやりがちな、3つのこと
見る側にいた経験から、「もったいないな」と感じた書き方を、3つだけ挙げておきます。自分が書くときにも、気をつけたいと思っている点です。
その1:経歴を、全部詰め込んでしまう
長く働いてきたぶん、書きたいことはたくさんあります。けれど、すべてを同じ濃さで書くと、読む側はどこが大事なのか分からなくなります。応募先に関係する経験を選んで、そこを厚く。これは「隠す」のではなく、「相手が読みやすいように整理する」ということです。
その2:謙遜しすぎてしまう
これは、まじめな方ほど陥りやすいところです。「たいしたことはしていません」という姿勢は、人柄としては好ましくても、書類の上では「何もできない人」に見えてしまいます。事実を、事実として、淡々と書く。誇張する必要はありませんが、過度にへりくだる必要もありません。
その3:古い実績に、偏ってしまう
若い頃の華々しい実績を中心に書いてしまうと、「この人のピークは昔だったのかな」という印象を与えかねません。それよりも、近年の経験から「今も現役で何ができるか」が伝わるほうが、ずっと響きます。
3つに共通するのは、結局のところ「正直に、相手が読みやすいように整理する」ということです。先ほども書いたように、見る側は、盛られた経歴より、正直に整理された経歴を信頼します。テクニックで飾るより、誠実に整える。そのほうが、遠回りなようでいて、いちばん伝わる近道なのだと思います。
私が「見る側」から「書く側」に回って、気づいたこと
最後に、少し個人的な話をさせてください。
書類を受け取って読んでいた頃の私は、正直なところ、書く側の苦労をあまり分かっていませんでした。「もっとこう書けばいいのに」と、わりと簡単に思っていたのです。
ところが、いざ自分が「もし書くとしたら」と想像して、頭の中で組み立ててみると、これがなかなか難しい。自分の経験を、自分で客観的に見つめて、相手に伝わる言葉に翻訳する。言葉にすると簡単ですが、実際にやろうとすると、まず「自分が何をしてきたのか」をうまく言えない自分に気づきます。
そして、もう一つ気づいたことがあります。それは、職務経歴書を書くという作業が、転職のためだけのものではない、ということです。
これまでの自分の仕事を振り返り、「何ができるようになったのか」を言葉にしていく。それは、転職するかどうかとは関係なく、「自分はこういう人間だ」と、自分自身が確かめる作業でもありました。書き終えたとき、応募する先があるかどうかとは別に、なんだか少し、自分のこれまでが整理された気がしたのです。
見る側にいたからこそ言えることがあるとすれば、それは「立派に見せようとしなくていい」ということです。正直に、分かりやすく。それだけで、書類は十分に役目を果たします。そして、その作業は、きっとあなた自身にとっても、悪くない時間になるはずです。
まとめ|職務経歴書は「翻訳」の作業
長くなりましたので、最後に整理します。
- 職務経歴書は「経歴の証明」ではなく、「経験を相手の言葉に翻訳する」書類
- 見る側が知りたいのは「何をしたか」より「うちで何の役に立つか」
- 盛る必要はない。正直に整理された経歴のほうが、結局は信頼される
- 書くことは、自分自身を振り返り、整理する作業でもある
- 記入例は「型」として使う。会社名・年月・担当を自分のものに置き換え、「翻訳」の部分だけ自分の言葉にする
職務経歴書は、転職活動の中でも、つい後回しにしたくなる作業かもしれません。けれど、ここは「相手にアピールする場」であると同時に、「自分を見つめ直す場」でもあります。気負わず、正直に。それが、いちばん伝わる書き方だと、私は思います。
なお、書類が無事に通った先には、面接が待っています。そこでどう自分を伝えるかについては、60代の転職面接、何を聞かれる?|「質問する側」だった私が明かす面接官の本音にまとめました。
注意: 本記事は私の個人的な体験と、一般的な情報をもとに書いています。転職や応募書類に関する判断は、個人の状況によって異なる場合があります。詳細については、ハローワークの相談窓口や、転職支援サービスのアドバイザーへの確認をおすすめします。


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