「再雇用を続けるか、それとも転職か。いっそ独立という手もあるのだろうか」。
定年が近づいてくると、こんなふうに頭の中で選択肢が並び始めます。そして多くの人が、どこかで「このうちの一つを、そろそろ決めなければ」と感じるのではないでしょうか。一つの道を選ぶことは、ほかの道をあきらめることだ——そんな前提が、知らないうちに肩にのしかかっていないでしょうか。
ただ、その前提そのものが、少し違うのかもしれません。60代の働き方は、必ずしも「どれか一つを選んで、ほかを捨てる」ものではありません。いくつかを重ねたり、少しずつ比重を移したりしながら、自分に合う形を探していく——そういう進み方のほうが、むしろ現実に近いのではないか。私自身、働き方を考えるうちに、そう思うようになりました。
この記事では、60代が取りうる主な働き方の選択肢を、それぞれの良い面と現実的な面を正直に並べたうえで、「選ぶ」のではなく「組み替える」という考え方を提案してみます。前回の記事では、定年後のキャリアを描くための自己分析のやり方を取り上げ、「自分はこれからどうしたいか」を見つめ直しました。その「どうしたいか」が少しずつ見えてきたら、次は「では、どんな進み方があるのか」を具体的に考える番です。
60代の働き方は「選ぶ」より「組み替える」
最初に、この記事でいちばんお伝えしたいことを書いておきます。
世の中には「再雇用か、転職か、独立か」という問いが、まるで三択クイズのように語られている場面がよくあります。たしかに、一つに腹を決めて進める人もいます。それはそれで立派な選択です。
ただ、50代60代になってから働き方を考えるとき、私は「一つに絞らなければいけない」という前提を、いったん外してみてもいいと思っています。
たとえば、再雇用を続けながら、空いた時間で小さな副業を試してみる。あるいは、しばらくは今の会社にいながら、いずれ独立する可能性も視野に入れて準備だけ進めておく。こうした「重ねる」「移行に備える」やり方は、決して中途半端なことではありません。むしろ、収入や生活の土台を守りながら、無理なく次を探っていける、現実的な進み方です。
働き方は、一度決めたら変えられない固定的なものではありません。状況や気持ちの変化に応じて、比重を組み替えていける。そう考えると、「今すぐ正解を一つに決めなければ」という気持ちが、少し楽になるのではないでしょうか。
そのうえで、まずは選択肢そのものを整理してみましょう。
主な選択肢を整理する
60代の働き方として、よく挙がる4つの道を取り上げます。それぞれ、向いている面と、知っておきたい現実の両方を見ていきます。
① 再雇用・継続雇用を続ける
定年後も同じ会社で働き続ける、最も身近な選択肢です。
良い面は、何といっても安定感です。慣れた職場、勝手のわかった仕事、顔なじみの同僚。一から環境を変えるストレスがなく、収入も(下がるとはいえ)見通しが立てやすい。社会保険にもそのまま加入し続けられるため、生活の土台が崩れにくいのは大きな安心です。
一方で、現実的な面もあります。多くの場合、給与は定年前から下がります。役割や立場が変わり、これまでとは違うやりにくさを感じることもあるでしょう。「同じ場所にいるのに、立ち位置だけが変わった」もどかしさは、再雇用を経験した人の多くが口にするところです。
近年は、企業に70歳までの就業機会の確保を促す動きが進み、長く働き続けられる環境は少しずつ整ってきています。厚生労働省の「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」によると、70歳までの就業機会を確保する措置を実施済みの企業は3割を超え、前年より増えています。再雇用や継続雇用を「定年後も働き続ける、当たり前の選択肢」として用意する会社は、これからも少しずつ増えていくと考えられます。
身近で堅実な道だからこそ、「ほかの可能性に蓋をしている」と感じる瞬間もあるかもしれません。けれど、安定した土台があるからこそ、その上で次を探せる、とも言えます。
② 転職する
別の会社へ移る選択肢です。今の職場の働き方に区切りをつけ、新しい環境で力を発揮したい人に向いています。
魅力は、環境をリセットできることです。給与や待遇、仕事内容を、自分の希望に近づけられる可能性があります。これまでの経験を、より評価してくれる場所が見つかることもあります。
とはいえ、60代の転職は、若い頃の転職とは事情が異なります。求人の数は限られ、希望どおりの条件がすぐに見つかるとは限りません。腰を据えた情報収集と、ある程度の時間が必要になります。この「転職という道をどう進むか」については、別のシリーズで詳しく扱う予定です。ここでは選択肢の一つとして押さえておきましょう。
「思いきって環境を変える」のは勇気がいります。ただ、変えること自体が目的になってしまわないよう、何を求めて移るのかを自分の中ではっきりさせておきたいところです。
③ 独立・フリーランス
会社に属さず、自分で仕事を請け負う働き方です。これまでの専門性や人脈を活かせる人にとっては、魅力的に映る道でしょう。
何より惹かれるのは、自由度の高さです。働く時間も場所も、引き受ける仕事も、自分で決められます。定年という区切りがなく、続けたいだけ続けられるのも利点です。
ただし、「自由」の裏側には、相応のリスクがあります。収入は不安定になりやすく、仕事が途切れれば収入もゼロになります。会社員のときには会社が負担してくれていた社会保険の手続きや費用を、自分で管理しなければなりません。「自由=気楽」というイメージだけで踏み出すと、思わぬところでつまずきます。独立を考えるなら、この現実を正直に受け止めたうえで、準備を整えてから進むのが鉄則です。
私自身、独立にあこがれる気持ちはあります。それでも、いきなり飛び込むのではなく、土台を残したまま少しずつ近づいていく形のほうが、自分には合っているように感じています。
④ 副業・複業(本業を持ちながら)
本業を続けながら、もう一つの収入源や活動を持つ働き方です。私自身も、この形に近いところにいます。
良い面は、土台を守りながら試せることです。本業で生活の基盤を確保しつつ、小さく新しいことを始められる。うまくいけば収入の足しになり、いずれ比重を移していく足がかりにもなります。お金だけでなく、「社会とつながっている」「誰かに必要とされている」という実感を得られるのも、見逃せない価値です。
注意したい点は、時間と体力の配分です。本業に加えて活動を持つわけですから、無理をすれば生活全体が苦しくなります。また、お勤めの会社によっては、就業規則で副業に一定のルールが設けられている場合があります。始める前に、自分の勤め先の規定を確認しておくことが大切です。どんな副業が向いているかをもう少し具体的に知りたい方は、「60代の副業はどう選ぶ?|自分の経験を活かす3つの選択肢」も参考にしてみてください。
+ 収入を主目的にしない関わり方
最後に、もう一つ。地域活動やボランティア、趣味を通じた人とのつながりなど、収入を主な目的としない関わり方もあります。
働き方を考えるとき、つい「いくら稼げるか」だけに目が向きがちです。けれど、60代以降の毎日を支えるのは、お金だけではありません。役割があること、人と関わること、出かける先があること。そうした「収入以外の働き」も、立派な選択肢の一つです。すべてを仕事で埋めなくてもいい、と思える余白を持っておくと、働き方の選択肢はぐっと広がります。
【体験】私自身、一つに決めずに重ねています
ここで、私自身の今の働き方を正直にお話しします。
私は今、定年後の再雇用という形で、会社員の仕事を続けています。これが生活の主軸です。そのうえで、このブログを運営しています。最初は収入の補填になればという気持ちもありましたが、続けているうちに、自分の経験を言葉にして誰かに届けることそのものに、意味を感じるようになりました。
さらに、頭の中では「いつかやってみたいこと」もいくつか温めています。電子書籍を書いてみること、自分の経験を人に教えるような形で関わること。どれもまだ「検討中」の段階で、はっきり踏み出したわけではありません。
つまり私は、「再雇用」という一つの道を選んで、ほかをすべて捨てたわけではないのです。再雇用を土台にしながら、ブログを重ね、その先のいくつかを探っている。そういう「組み替えながら進む」途中にいます。
正直に言えば、「これが自分の最終形だ」という確信は、まだありません。完全に独立する具体的な計画があるわけでもありません。ただ、生活の土台となる社会保険を確保しながらなら、いくつかを併せ持つやり方も現実的かもしれない、と考えています。一つに決めきれていないことを、以前は中途半端だと感じていました。でも今は、これも一つの進み方なのだと、少しずつ思えるようになってきました。
「組み替える」ときに考えたい3つの視点
働き方を重ねたり移したりするとき、勢いだけで進むと足元をすくわれます。私が大事だと感じている3つの視点を挙げておきます。
一つめは、社会保険をどう確保するかです。会社員として働いていると、社会保険は当たり前のように整っています。けれど、独立やフリーランスに比重を移すと、この土台を自分で支えなければなりません。働き方を組み替えるときは、「保障の土台が崩れないか」を必ず確認しておきたいところです。
二つめは、時間と体力の配分です。いくつかを重ねるということは、その分だけ時間と気力を使うということです。60代は、若い頃のように無理が効く年代ではありません。「全部やろう」とせず、自分が無理なく続けられる範囲を見極めることが、長く続けるコツです。
三つめは、無理なく移れる順序かどうかです。いきなり安定した土台を手放して新しい道に飛び込むのは、リスクが大きい。まずは今の土台を保ったまま小さく試し、手応えを確かめながら少しずつ比重を移していく。この順序を意識するだけで、失敗したときの痛手はぐっと小さくなります。
今すぐ正解を一つに決めなくていい
ここまで、4つの選択肢と、それを「組み替える」という考え方を見てきました。
最後にお伝えしたいのは、「今すぐ正解を一つに決めなくていい」ということです。
定年という区切りを前にすると、何か大きな決断をしなければいけない気がしてきます。でも、働き方は一度決めたら終わりではありません。やってみて、合わなければ比重を変えればいい。新しい興味が出てきたら、また組み替えればいい。
大切なのは、完璧な答えを今出すことではなく、今の自分に合いそうな配分を、まず一つ試してみることです。再雇用を続けながら、気になっていたことを小さく始めてみる。その小さな一歩が、次の景色を見せてくれます。
まとめ
60代の働き方には、再雇用、転職、独立、副業と、さまざまな選択肢があります。そして、それらは「どれか一つを選んで、ほかを捨てる」ものではありません。
いくつかを重ね、少しずつ比重を移しながら、自分に合う形を見つけていく。働き方は固定されたものではなく、組み替えていけるものです。
私自身も、まだその途中にいます。一つに決めきれていないことを、もう焦らなくてもいいのだと、最近になってようやく思えるようになりました。働き方そのものをどう捉え直してきたかは、以前の記事でも書きました。あなたの働き方も、今すぐ一つに決める必要はありません。まずは、土台を守りながら、気になる一歩を小さく試すところから始めてみてください。
注意: 本記事は私の個人的な体験と、一般的な情報をもとに書いています。再雇用や転職、独立、副業に関する判断は、個人の状況によって異なる場合があります。詳細については、会社の人事担当者や社会保険労務士への確認をおすすめします。
出典
- 厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(2025年12月公表)— 70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は34.8%(前年から2.9ポイント増加)


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