定年前に取るべき資格5選|50代60代が「目的とコスト」で選ぶ

パソコンの使い方を学ぶ年配の男性と指導する女性。50代60代の学び直し・リスキリングのイメージ キャリア戦略
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「定年前に資格でも取ろうかな」と、ふと思うことはありませんか。再雇用後の働き方、転職の可能性、副業、あるいは単に学びたい気持ち。きっかけは人それぞれだと思います。

ただ、ここで立ち止まって考えたいのは、その「思いつき」と「実際に取る目的」のあいだに、どれくらい距離があるかということです。

正直に申し上げると、私自身は今、新たに何か資格を取る方向では考えていません。英検への挑戦(準1級を取得し、今は1級に向けて)は続けていますが、それ以外を新規に取得する具体的な計画はありません。「目的」と「取得にかかるコスト」のバランスを考えたとき、今の自分には新規取得を選ぶ十分な理由が見当たらないからです。

そんな書き手が、それでもこの記事を書いているのは、「資格は取るべきもの」という前提ではなく、「目的に合えば取るもの」という整理を、50代後半から60代前半の読者の方に届けたいと思ったからです。

この記事では、定年前後で取得を検討する人が多い資格を5つ、目的の異なるカテゴリから1つずつ選んで整理しました。合格率や学習時間といった事実情報のほか、収入面の実情もできるだけ正直にお伝えします。

なお、これから紹介する5つは、いずれも厚生労働省の教育訓練給付制度を活用できる可能性があります。これは、厚生労働大臣が指定した講座を受講・修了した場合に、受講費用の一部(資格や講座によって20〜50%、上限あり)が支給される制度です。資格そのものではなく「指定された講座を受けること」が条件になる点だけ、先に押さえておいてください。

資格を選ぶ前に — 「目的」と「コスト」のバランス

50代60代で資格取得を考えるとき、選ぶ前に整理しておきたいことが3つあります。目的・時間コスト・効果です。

目的: 再雇用先での評価維持なのか、転職時の差別化なのか、副業の足場づくりなのか、純粋に学びたいのか。同じ資格でも、目的が違えば取得後の使い方も変わります。

時間コスト: 50代後半から60代前半は、体力・視力・集中力に変化が出始める時期です。100時間で取れる資格と300時間以上必要な資格では、向き合い方が変わります。仕事や家族との時間との両立も含めて、現実的に見積もる必要があります。

効果: ここが本記事で特に丁寧に扱いたいところです。多くの「資格おすすめ」記事は、若手を念頭に「資格手当が月いくら」「年収が上がる」で締めくくります。しかし、50代60代では事情が違います。シニア層では「資格があるから年収が上がる」より、「応募できる職種が広がる」「時給が上がる」「契約が継続される」という形で効いてくるのが現実です。直接の手当より、機会の拡大として捉えたほうが、期待と現実のズレが小さくなります。

以前の記事で「60代の強み」を「自分が思うこと」と「企業が見ること」の両輪で整理しましたが、資格も同じで、内側の自覚と外側の評価が一致したところに効果が生まれます。

50代60代向け 資格5選

ここから5つを1つずつ見ていきます。各資格について、概要・学習コスト・収入面・「目的が合う人/合わない人」の順で整理します。

① 宅地建物取引士(宅建士) — キャリア延長系

概要と学習コスト: 不動産取引の「重要事項説明」を独占できる人気の国家資格です。学習時間の目安は約300時間。令和7年度(2025年)の合格率は18.7%、合格者は45,821人。法律系国家資格としては中堅の難易度です。

収入面の実情: 不動産業界での資格手当の相場は月5,000円〜30,000円。事業所には従業員5人につき1人以上の宅建士を配置する義務があり、需要が安定しています。50代60代では、再就職や継続雇用の差別化要素になる点が大きい。金融機関の融資担当や、相続関連の業務でも知識が活きる場面があります。

目的が合う人: 不動産業界でのセカンドキャリアを視野に入れている方、定年後にパート勤務でも安定した職を確保したい方。

目的が合わない人: 不動産業界とまったく接点がない仕事に絞っている方。

人事業務に長く関わってきた経験から言うと、宅建士は「業界の入口で評価される」典型的な資格です。

② 日商簿記2級 — 副業・収入補填系

概要と学習コスト: 商業簿記+工業簿記で経理の実務レベルを証明する検定です。学習時間の目安は150〜400時間。未経験から始めるなら3級(目安100時間)を踏まえてから進むのが現実的。合格率は統一試験で20〜30%台、ネット試験で35%前後(2025年実績)。

収入面の実情: 資格手当の相場は月3,000円〜10,000円。手当より、経理職や経理補助への応募が現実的になることが本当の効果です。確定申告サポートや個人事業の経理代行など、副業の入口にもなります。「経理経験者+簿記2級」は税理士事務所のパート求人で歓迎されることがあります。

目的が合う人: 経理職への応募・継続雇用、副業として個人事業の経理、個人事業主として開業を視野に入れている方。

目的が合わない人: 数字を扱うことに強い苦手意識がある方。

簿記2級は、副業や開業を考える方には「数字を読める」基礎体力を与えてくれる資格です。以前にフリーランス・個人事業主の働き方を整理した記事でも触れたとおり、お金まわりの知識は自分を守る道具にもなります。

③ 実用英語技能検定(英検) — 学び・教養系

概要と学習コスト: 5級から1級まで段階的に分かれた語学検定です。50代60代で取得を考える場合、実用的なラインは2級〜準1級。2級は高校卒業程度、準1級は大学中級程度、1級は専門領域に踏み込むレベルです。

収入面の実情: 資格手当の相場は月5,000円〜10,000円程度で、英語を業務で使う職場に限られます。50代60代でのリアルな効果は、手当より英語を要する職場での採用機会の拡大や、海外取引のある会社での継続雇用として表れます。

ただ、英検の本当の価値は収入とは別のところにもあります。語彙や表現の蓄積で「読める世界」が確実に広がる。海外旅行のときの不安が小さくなり、ニュースや本の選択肢も広がる。「実益から始めた学びが、続けているうちに『好き』に近づいてくる」感覚は、英検に限らず学び全般に共通する経験だと思います。

目的が合う人: 語学に興味があり継続して学びたい方、海外旅行を楽しみたい方、学習習慣を持ちたい方。

目的が合わない人: 仕事に英語がまったく絡まない方、収入アップを最優先にしたい方。

私自身は準1級を取得したあと、1級に向けて学び続けています。1級は語彙の壁が高くなかなか届きませんが、それでも続けている理由は、「学ぶこと自体が日々の手応えになる」からです。

④ ITパスポート — キャリアチェンジ・教養系

概要と学習コスト: ITの基本知識(技術・経営・法務)を幅広く問う国家試験です。学習時間の目安は100〜180時間。CBT方式で全国通年実施、受験料は7,500円(2025年度)。合格率は約50%前後で安定しており(2024年度49.8%、社会人53%台)、しっかり対策すれば届く範囲です。

収入面の実情: 資格手当の相場は月3,000円〜10,000円で控えめです。50代60代でのリアルな効果は、手当より「IT苦手意識」を克服したという証明にあります。再雇用先での部署異動、DX関連の研修への参加、IT関連の副業の入口として、「ITの基礎は理解している」という土台が評価につながる場面があります。

目的が合う人: IT関連の業務にあまり関わってこなかったが職場のDX化に対応したい方、IT関連の副業を考えている方。

目的が合わない人: 既にIT実務経験が豊富な方、IT関連業務に縁がない働き方を続けたい方。

ITパスポートは「派手ではないが土台を固める」タイプの資格です。最年少合格者は小学1年生というデータもあり、年齢を理由に敬遠する必要はありません。

⑤ ファイナンシャル・プランニング技能士(FP)2級/3級 — 両論併記が必要な資格

最後に、少し丁寧に扱いたい資格があります。FPです。

概要と学習コスト: 年金・保険・税金・不動産・相続といった「お金の全体像」を体系的に学べる国家資格です。3級は学習時間30〜150時間、合格率は2025年4〜9月で学科86.31%・実技85.38%。2級は150〜300時間、合格率は学科47%・実技56%前後。2025年4月よりCBT方式に完全移行し、通年受験可能になりました。

収入面の実情: 金融業界では資格手当の対象になることが多く、相場は月5,000円〜30,000円。ただ金融業界以外では手当の対象になりにくく、直接の収入アップ効果は限定的です。

ここからが、FPについて特にお伝えしたい両論併記の部分です。

【学びとしての価値:大いにあります】

FPで学ぶ内容は、年金・社会保険・税金・不動産・相続といった、誰の人生にも関わる領域です。50代60代という、まさにこれらの知識が必要になる年代にとって、お金の全体像を体系的に整理できる教材として優れています。「家計を見直したい」「年金や相続の知識を整理したい」という目的なら、FPの学びは確かに役立ちます。

【相談先としての注意点:あります】

一方で、「FPに相談すれば自分のお金の悩みが解決する」という期待は、少し慎重に持つ必要があります。FPという職業は、ビジネスモデル上、特定の金融商品(保険・投資信託など)の紹介と結びついているケースがあり、相談の中立性が必ずしも担保されていません。

このブログでは、お金に関する個別相談は領域ごとに専門家を分けることをお勧めしてきました。年金関連なら年金事務所や社会保険労務士、健康保険なら加入先の健保組合や市区町村窓口、税金や開業なら最寄りの税務署や税理士、というふうに。FPは「全体像を学ぶための資格」としては優秀ですが、「個別の判断を委ねる相談先」としては、専門領域の専門家と組み合わせて使うのが安全だと考えています。

目的が合う人: お金の全体像を体系的に学びたい方、家計や資産の見直しのきっかけがほしい方。

目的が合わない人: 「FPに相談すれば全て解決する」と期待している方、税務・年金・相続の個別判断を求めている方。

「学びとしては有用」「相談先としては別の専門家と組み合わせる」と整理することで、FPの本当の使い道が見えてきます。

5選すべてで活用できる「教育訓練給付制度」

ここまでの5つの資格には、共通する特徴があります。いずれも厚生労働省の教育訓練給付制度を活用できる可能性があることです。

教育訓練給付制度は、雇用保険の被保険者(または離職後一定期間内)が、厚生労働大臣の指定する講座を受講して修了した場合に、受講費用の一部が支給される制度です。大切なのは、「資格そのもの」ではなく「指定された講座を受講・修了すること」が条件だという点です。同じ資格でも、対象になるかどうかは講座(コース)単位で決まります。給付には3つの区分があり、対象や支給率が異なります。

  • 一般教育訓練給付:受講費用の20%(上限10万円)。英検・簿記・ITパスポートなどの対策講座が中心
  • 特定一般教育訓練給付:受講費用の40%(上限20万円)。宅建士など業務独占資格の講座
  • 専門実践教育訓練給付:受講費用の50%(上限年間40万円、修了・就職等で追加20%)。FP技能士など

注意したいのは、給付率は資格や講座によって差があることです。たとえば英検などの語学系は、指定された対策講座を受講した場合に一般教育訓練(20%)の対象になり得ますが、独学で受験するだけでは対象になりません。一方、宅建士やFPは、より高い区分(40%・50%)が用意されている講座もあります。

支給を受けるには、雇用保険の被保険者期間が一定以上必要です(初回は1年または2年以上)。在職中の方も、離職後1年以内であれば対象になります。自分が対象になるか、また受けたい講座が指定講座かどうかは、最寄りのハローワークで確認できます。

この制度の存在を知らずに講座代を全額自己負担している方は実際にいらっしゃいます。資格取得を本気で考えるなら、まずは「自分の状況で給付対象になるか」「その講座は指定講座か」をハローワークで確認することから始めても損はないと思います。

「取らない選択」も、悪くない

ここまで5つを整理してきましたが、最後に正直なことを書かせてください。

私自身は今、新たに何か資格を取る方向では考えていません。英検の学習は続けていますが、それ以上に幅を広げる予定はありません。過去に簿記の深掘りを考えたり、教員免許を複数取ったりした経験もあります。そのときどきの動機はそれなりにあったわけですが、振り返って思うのは、「資格を取ること」と「目的を果たすこと」は別だ、ということです。

40年近く事務・管理系の仕事を続けてきて、人事業務にも関わった経験から、つくづく感じます。資格は手段であって、目的ではない。目的が明確で、その目的に対して資格が有効だと判断したときに、初めて「取る」という選択が意味を持ちます。逆に、目的が曖昧なまま「とりあえず何か取ろう」と始めると、時間と労力を投入したわりに何にもつながらない、ということが起こります。

ですから、この記事を読んでくださっている方にお伝えしたいのは、「取らない」という結論も、十分に価値のある結論だということです。5つを見比べたうえで「自分には今、取る目的がない」と判断するなら、それは賢明な選択です。

あなたの「目的」を見つける3つの問い

最後に、自分の目的を見つけるための問いを3つ置いておきます。

問い1:この資格で、何を変えたいですか?

現役延長なのか、再就職なのか、副業なのか、学びそのものなのか。変えたい「何か」が明確にならないと、資格は手段として機能しません。

問い2:時間と労力のコストを、現実的に払えますか?

1日1時間×半年〜1年という現実を、仕事や家族との時間と両立できるか。50代60代は学習時間の捻出が難しい一方、集中力や継続力では有利な面もあります。

問い3:取らない選択肢も、ありえますか?

前回の記事でも触れたとおり、60代の強みは「すでに手元にあるもの」を別の言葉で語り直す「再発見」の作業から生まれます。資格も同じで、新しく追加するだけが選択肢ではありません。

まとめ:資格は「取るべきもの」ではなく「目的に合えば取るもの」

50代60代向けの資格5選を、目的別に整理してきました。

  • 宅建士 — 不動産業界での再就職・継続雇用の差別化に
  • 日商簿記2級 — 経理職・副業・個人事業の足場に
  • 英検 — 学びの継続と教養の広がりに
  • ITパスポート — IT苦手意識の克服と土台固めに
  • FP2級/3級 — お金の全体像の学びに(相談先としては別の専門家と組み合わせて)

これらすべてに共通するのが、「目的が合えば取る、合わなければ取らない」という基本姿勢です。資格手当や年収アップを煽る記事も多くありますが、50代60代では「資格があるから収入が上がる」より「資格があると応募できる職種が広がる」のほうが現実に近い。期待と現実のズレを小さくすることが、結局は満足度の高い選択につながります。

シリーズを通して書いてきたように、定年前後の「働き方の見直し」は、外向きの大きな変化ではなく、内向きの小さな再発見の積み重ねかもしれません。60歳からの「働き方改革」とは何かを総括した記事でも触れましたが、「変化に飛び込む勇気はまだ持てなくても、何か違うものが見えてきた」——そんな感覚と、資格選びは地続きでつながっています。

「取るべき」と煽られて取るのではなく、「自分の目的に合うから」取る。または、「自分の目的には合わないから」取らない。そのどちらの結論も、等しく価値があります。あなたの目的に合う一つを、あるいは「合うものはない」という結論を、見つけてください。

出典

  • 厚生労働省「高齢期において就業の選択肢を広げるためのリ・スキリング支援等の取組状況等について」(内閣府 高齢社会対策大綱検討会 資料7)https://www8.cao.go.jp/kourei/taikou-kentoukai/k_2/pdf/s7.pdf
  • ユーキャン「50代に人気の資格は?人気通信講座ランキングTOP20」(2025年1〜11月の受講申込数によるランキング)https://www.u-can.co.jp/special/feature/rank/50.html
  • 各資格の合格率・学習時間データは、2025〜2026年度の各団体公式情報および主要予備校・通信講座事業者の公表値に基づきます。

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