スキル棚卸しのやり方|50代・60代が「次」を考える前にやる7ステップ

デスクの前で考えごとをするシニア男性 キャリア戦略

50代後半から60代前半にかけて、ふと「このまま今の仕事を続けていていいのだろうか」「定年後、自分は何ができるのだろうか」と考える瞬間が訪れる方は、少なくないと思います。

転職活動を本格的に始めるほどではない。でも、何もしないままでいるのも落ち着かない。そんな「グレーゾーン」にいる方に、まずやってみていただきたいのが、スキルの棚卸しです。

転職サイトに登録する前。資格学校のパンフレットを取り寄せる前。家族に「これからどうする?」と聞かれる前に、自分の手元にあるものを一度、紙の上で見えるようにしてみる。これだけで、「次」を考えるときの足元の確かさが、ずいぶん変わってきます。

以前の記事(60歳からの「働き方改革」とは何か|続けるうちに見えてきたこと)では、60代の働き方改革は「外向きの変化」よりも、続けるうちに気づく「内向きの変化」が本質だと書きました。スキル棚卸しは、その内向きの変化を、もう少し意識的に、紙の上で進めるための作業です。

この記事では、50代・60代がスキル棚卸しをやる意味と、具体的な7ステップを整理しました。後半では、私自身が同じ手順で棚卸ししてみてわかったことも書いています。

スキル棚卸しとは何か

スキル棚卸しとは、これまでの職業人生で身につけてきた知識・技能・経験を、一度すべて書き出して可視化する作業のことです。

「棚卸し」という言葉は、もともと会社で在庫を数える業務に使われるものです。スキル棚卸しも考え方は同じで、自分の中に「何が」「どれくらい」あるかを、見えるようにすること。それ以上でも、それ以下でもありません。

棚卸しは、転職のためだけにやるものではありません。社内での次の異動、再雇用での新しい役割、定年後の働き方、地域活動、副業 — どんな「次」を考えるにしても、出発点は「今の自分の手元に何があるか」を知ることです。

似た作業に「自己分析」や「キャリアの棚卸し」という呼び方もあります。本記事では、若手の自己分析とは区別し、40年近い職業経験を抱えた人が、自分の手元を見つめ直す作業としてスキル棚卸しを位置づけていきます。

なぜ50代・60代に棚卸しが必要か(3つの理由)

棚卸しは新卒の就職活動でも、20代・30代の転職活動でも使われる手法です。では、なぜ50代・60代に改めて必要なのでしょうか。理由は3つあります。

理由1:経験が多すぎて、自分でも全体像が見えていない

40年近い職業人生を歩んできた人にとって、自分の経験は「ありすぎて、まとまっていない」状態になりがちです。部署も役割も何度も変わってきた人ほど、自分の職歴を時系列で改めて語ることすら、意外と難しいものです。

棚卸しは、その散らばった経験を一度ひとつのシートに並べ直す作業です。並べてはじめて、ばらばらに見えていた仕事の底に、共通の軸が見えてくることがあります。

理由2:履歴書の「資格欄」では強みが伝わらない

50代・60代の本当の強みは、資格や役職名では表現しきれない領域にあります。たとえば、長期にわたる難題を投げ出さずに引き継いだ経験。利害が対立する場面での調整力。修羅場での判断力。こうしたものは、肩書きの一行では伝わりません。

棚卸しは、肩書きの裏にある「実際に何をやってきたか」「どんな経験をくぐってきたか」を言葉にする作業です。これをやらないと、自分の本当の強みを、誰にも、あるいは自分自身にも、伝えられないままになります。

理由3:「次」の選択肢が広すぎる

50代・60代の「次」は、若い人とは違って選択肢の幅が広いのが特徴です。再雇用、転職、独立、副業、地域活動、ボランティア、学び直し — 道はいくらでもあります。

選択肢が多すぎるからこそ、「自分に合うかどうか」の判断基準が必要になります。その判断基準を作るためには、まず自分の手元にあるものを把握すること。棚卸しは、「次」の選択肢を絞り込むための物差しを、自分の中に作る作業でもあります。

スキル棚卸しの7ステップ

ここからが本題です。実際の棚卸しを、7つのステップに分けて整理しました。1日でやり切ろうとせず、1ステップ30分程度を目安に、何日かに分けて進めるのがおすすめです。

Step 1:職歴の時系列俯瞰

大学卒業から現在までを、ざっと年表のように書き出します。最初から会社名・部署名・役職を細かく書く必要はありません。「20代は最初の業界で○○系の仕事」「30代後半に転職して××系へ」のように、まずは大ぐくりで全体像を見渡せる形を作ります。

Step 2:各時期の主な業務

Step 1で書き出した各時期について、もう一段詳しく業務内容を書き出します。「具体的に何を担当していたか」「どんな案件に関わったか」を、思い出せる範囲で並べていきます。完璧を目指さなくて大丈夫です。

Step 3:身についたスキル(技能・知識・経験)

それぞれの業務を通じて身についたものを書き出します。専門知識・社内で評価された技能・業界特有の経験・対人スキル、何でも構いません。「資格」だけでなく「やってきたから自然と身についた力」が大事です。

Step 4:評価された・感謝された・成果を出した経験

過去に「ありがとう」と言われた場面、上司や顧客から評価された場面、自分なりに「やり遂げた」と思える場面を書き出します。記憶に残っているものは、自分にとって意味のあった経験です。ここは少し時間をかけて思い出してみてください。

Step 5:「自分の強み」と思うものの抽出

Step 3とStep 4を眺めながら、「これは自分の強みかもしれない」と思うものを抽出します。他人と比べてどうかではなく、自分の中で繰り返し現れたものを見つける感覚です。

Step 6:ポータブルスキル(汎用性のある力)の整理

ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても持ち運べる力のことです。たとえば、調整力・段取り力・文書作成力・対人折衝力など。Step 5で抽出した強みを、別の場所でも使える形に言い換えてみる作業です。

Step 7:興味・志向との交差点

最後に、「これまでやってきたこと(Step 3〜6)」と「自分が関心を持ち続けてきたこと」が交差する場所を探します。若い頃に憧れた職業、続けている学び、本棚にあるテーマ、休日に時間を使っていることなど。

ここで見つかる「交差点」が、「次」を考えるときの最初のヒントになります。

【体験】私自身が棚卸しをやってみてわかった3つのこと

ここまで7ステップを客観的に整理してきましたが、実は私自身、この記事を書く前に同じ手順で自分の棚卸しを一通りやってみました。40年近い職業経験を、改めて並べ直す作業です。

結論から言うと、棚卸しを始める前に予想していたものとは、ずいぶん違うものが見えてきました。

1. 「次」を考えるための作業のはずが、「これまで」が見えてきた

棚卸しを始めたきっかけは、「定年後の次をどう考えるか」を整理したかったからでした。前向きな目的で取り組んだはずなのに、作業を進めていくうちに最初に出てきたのは、「これまでの40年が、実はひとつの軸でつながっていた」という発見でした。

部署も役割も何度も変わってきて、自分でも「ばらばらの仕事をやってきた」と思っていたのです。けれども7ステップに沿って並べ直してみると、表面的にはばらばらに見える経験の底に、共通する素地のようなものがあることが見えてきました。「次」を見るための作業のつもりが、まず「これまで」が見えてきた、というのが最初の発見でした。

2. 「もう一つの道」と「今の道」は地続きだった

若いころ、別の専門職に進もうとして果たせなかった経験がいくつかあります。資格試験への挑戦、勉強の途中で諦めた専門分野、いったんは取った別の業種への入口 — 振り返ると、自分の中には「歩まなかったもう一つの道」がいくつもありました。

棚卸し以前は、これらを「やらなかった後悔」として見ていました。ところが棚卸しをしてみると、その「もう一つの道」と「実際に40年歩いてきた今の道」が、実は同じ素地から伸びていたことに気づきました。歩まなかったのではなく、別の入口から同じ素地を耕してきたのだ、ということに気づいたのです。

これは私にとって、思いがけず救われる気づきでした。「あのとき選ばなかった道」と「実際に歩いてきた道」を別物として比べていたものが、地続きの一本の道として見えるようになった、と言ってもいいかもしれません。

3. 「降格に見えた働き方の変化」が、実は手元を取り戻す経験だった

中年期以降、役職が上がってもなお現場の細かい実務を抱える時期がありました。当時の私はそれを「立場が上がったのに、実態は2階級降格のようだ」と感じ、不本意さを抱えていたのを覚えています。再雇用後は、さらに完全に現場の仕事に戻りました。これも当初は、立場の変化として戸惑いがあったのは事実です(再雇用前後の手続きや働き方の変化については、以前の記事再雇用制度とは?仕組みと手続きを60代が解説でも触れています)。

ところが棚卸しの中で振り返ってみると、この一連の「降格に見えた変化」が、実は自分の手元の仕事を、もう一度自分の目で見直す経験になっていました。机上の判断ではなく、現場の手触りから物事を見る目。サービスを受ける側に近い感覚で考える目。そういうものは、現場に戻らなければ育たなかったものだと、今は思います。

3つに共通しているのは、「『次』を考えるための作業のはずが、過去や現在の意味が更新された」ということでした。棚卸しは未来のためにやる作業のはずですが、実際には「これまでの自分」を救い直してくれる作業でもあった、というのが、私自身の率直な感想です。

棚卸しシート(7ステップのフレーム)

棚卸しに使えるシートとして、7ステップを以下に再掲します。ノートでもパソコンでも構いませんので、見出しだけ書き出してから取り組んでみてください。

Step 内容
1 職歴の時系列俯瞰(大学卒業〜現在の大まかな流れ)
2 各時期の主な業務(部署・役割ごとの掘り下げ)
3 身についたスキル(技能・知識・経験)
4 評価された・感謝された・成果を出した経験
5 「自分の強み」と思うものの抽出
6 ポータブルスキル(汎用性のある力)の整理
7 興味・志向との交差点

最初から完璧に埋めようとせず、思い出した順に書き加えていく形で大丈夫です。

棚卸しのあとに何をするか

棚卸しが一通り終わったら、次に何をすればいいでしょうか。あくまで一例ですが、私が考えている流れを紹介します。

1つ目は、棚卸しを「数か月ほど寝かせる」ことです。書き終えた直後は、自分の経験を客観視できないことが多いものです。少し時間をおいて読み返すと、「自分が大事にしてきたもの」が違って見えてくることがあります。

2つ目は、家族や信頼できる人に見てもらうことです。自分では当たり前と思っていた経験が、第三者には「強みとして十分通用する」と見えることもあります。逆に、自分が強みだと思っていたものが、外から見るとあまり伝わらないことも分かります。

3つ目は、「次」の選択肢を、棚卸しの結果と照らし合わせて検討することです。再雇用を続けるのか、転職に踏み出すのか、副業や独立を視野に入れるのか。それぞれの選択肢は、自分の手元にあるスキルと照らし合わせてはじめて、現実的な判断ができます(再雇用と転職の判断軸については、以前の記事再雇用か転職か|定年前に直面した私の決断基準でも書きました)。

棚卸しはゴールではなく、出発点です。書き終わったところで作業を止めず、次の小さな動きにつなげていくことが大切だと、私は思っています。

まとめ:「次」のために、まず「手元」を

50代・60代の「次」を考えるとき、つい外側ばかり見てしまいがちです。求人サイト、資格情報、副業の事例 — 情報はいくらでも手に入ります。

ですが、その前にまずやっておきたいのが、自分の手元を見直す作業です。スキル棚卸しは、そのための具体的な手段です。

40年近く積み重ねてきたものを言葉にしてみると、思いがけず「これまでの自分」の意味が見直されることがあります。それは「次」を考えるための準備にもなりますし、何より「これまでの自分を、自分で認める」きっかけになります。

「次」を考える前に、まず「手元」を。本記事の7ステップが、その第一歩のお役に立てば嬉しく思います。


※本記事は私自身の体験と、一般的なキャリア棚卸しの考え方をもとに書いています。「次」のキャリアに関する具体的な判断は、お一人ごとの状況によって異なります。必要に応じて、会社の人事担当者やキャリアコンサルタント等への相談もご検討ください。

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