あなたの会社の退職金制度はどのタイプ?まず確認したいこと
退職金の受け取り方を考えるとき、最初にやっておきたいのが「自分の会社の退職金制度がどのタイプか」を確認することです。受け取り方の選択肢は、会社の制度によって大きく変わります。家計の見直しや老後資金の組み立てを考える前に、まずは制度の輪郭を押さえておくと、その後の判断がスムーズになります。家計全体の見直しの考え方は、再雇用で給与が下がった後|家計を見直して気づいた3つのことでも触れています。
ちなみに、すべての会社に退職金制度があるわけではありません。中小企業を中心に、退職金制度そのものを設けていない会社もあります。これは決して悪いことではなく、その分を月々の給与や賞与で還元する考え方の会社もあります。まずは、自分の会社に制度があるかどうかから確認することが出発点になります。
確認の方法は、主に次の3つです。
- 就業規則を見る:退職金規程として別冊になっている場合もあります
- 退職金規程を取り寄せる:人事部や総務部に依頼すれば閲覧できます
- 人事担当者に直接聞く:制度の概要だけでも確認しておくと安心です
退職金制度には、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。本記事では、この3つのタイプそれぞれの特徴と、受け取り方による税金の違いを整理していきます。
- タイプ①:退職一時金制度(一括で受け取るタイプ)
- タイプ②:企業年金制度(一時金・年金・併用から選べるタイプ)
- タイプ③:中小企業退職金共済(中退共)(国の制度を活用した退職金)
タイプ① 退職一時金制度|一括で受け取るタイプ
退職一時金制度は、退職時に会社から一括で退職金を受け取る、もっともシンプルなタイプです。中小企業で採用されているケースが多く、勤続年数や退職時の基本給などをもとに支給額が計算されます。
受け取り方の特徴
このタイプは、原則として退職時に一括で受け取る形になります。年金として分割で受け取るという選択肢はなく、退職と同時にまとまった金額が支払われます。
メリット
一時金で受け取ることのメリットは、税制面で大きな優遇があることです。後ほど詳しく整理しますが、退職所得控除という大きな控除枠を、まとめて使えるのが特徴です。勤続年数が長い人ほど控除枠も大きくなり、税負担が軽くなる傾向があります。
また、まとまった資金を自分の判断で使えるという自由度の高さもあります。住宅ローンの繰上返済、老後資金の置き場の組み替え、家計の組み直しなど、用途を自分で決められるのは大きな利点です。
注意点
一方で、一括で受け取った後の管理は自分自身で考える必要があるという点には注意が必要です。何十年分かの収入が一度に手元に入ってくることになるため、取り崩し計画を立てずに使ってしまうと、老後資金が早く枯渇するリスクもあります。受け取った後の置き場や使い方は、家計全体の中で考えていくことになります。
タイプ② 企業年金制度|一時金・年金・併用から選べるタイプ
企業年金制度は、大企業を中心に採用されているタイプで、受け取り方の選択肢が複数あるのが特徴です。代表的なものに、確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(企業型DC)があります。会社によっては、これらと退職一時金制度を組み合わせている場合もあります。
このタイプの大きな特徴は、退職金を「一時金」「年金」「併用」のいずれかで受け取れる選択肢があることです。
一時金で受け取る場合
退職時に一括で受け取る方法です。タイプ①の退職一時金制度と同じく、退職所得控除という税制優遇を使える点がメリットです。「まとまった金額をすぐに使いたい」「自分で運用したい」という考え方の人に向いています。
年金で受け取る場合
数年〜数十年に分けて、毎月または毎年、定額または変動額で受け取る方法です。会社の規約によって、受け取り期間(5年・10年・20年など)や、終身年金として受け取れるかどうかが決まっています。
年金で受け取る場合、受け取りを開始するまでの間や受け取り期間中も、原資は会社や運営機関で運用が続けられるため、運用利息の分だけ総額が増えるケースもあります。一方で、後述するように税金面では一時金とは異なる扱いになります。
併用で受け取る場合
一部を退職時に一時金で、残りを年金で受け取る方法です。これは、退職所得控除の枠を一時金部分でフルに使い切り、残りを年金として受け取るという、税制上もっとも合理的な選択肢として知られています。ただし、会社の規約によって併用の比率が決まっていることもあるため、事前の確認が必要です。
注意点
企業年金は、会社の規約によって選択肢の有無や比率が異なります。「年金受け取りができると思っていたのにできなかった」といったすれ違いを避けるため、退職前の早い段階で人事担当者に確認しておくのが安心です。また、受け取り方の選択には申請期限が設けられているケースもあります。
タイプ③ 中小企業退職金共済(中退共)|国の制度を活用した退職金
中小企業退職金共済(中退共)は、独立行政法人 勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの退職金制度です。会社が毎月一定の掛金を中退共に納め、退職時に従業員が直接、中退共から退職金を受け取る仕組みになっています。中小企業に勤めている方の場合、この制度の対象になっていることがあります。
受け取り方の特徴
中退共の退職金は、基本的に一時金として一括で受け取る形になります。ただし、一定の条件を満たせば、5年または10年以内の分割払いも選べる場合があります。
注意点
ここで注意したいのは、中退共の「分割払い」と、企業年金制度の「年金受け取り」は税制上の扱いが異なることがある、という点です。詳細は本記事の後半(H2-5)で整理しますが、退職金として一括で受け取るのか、分割で受け取るのかによって、適用される控除や課税方法が変わってきます。
中退共の制度設計や受け取り方の詳細は、勤労者退職金共済機構の公式案内や、会社の人事担当者への確認が確実です。
税金で考える|退職所得控除と公的年金等控除
ここからは、退職金の税金面について整理します。退職金は、受け取り方によって適用される控除や課税方法が異なります。同じ金額を受け取る場合でも、税負担の重さが変わってくるのが、退職金のもっとも大きな論点です。
一時金で受け取る場合|退職所得控除と1/2課税
退職金を一時金で受け取る場合、「退職所得」として課税されます。退職所得には、退職所得控除という大きな控除枠が設けられているうえ、控除後の金額をさらに1/2にしたものが課税対象になるという、強力な優遇があります。
退職所得控除額の計算式は、勤続年数によって変わります。
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(80万円未満は80万円)
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
※ 勤続年数の1年未満の端数は、1年に切り上げて計算します。
例えば、60代前半・勤続35年・退職金2,000万円というケースで計算してみます。
- 退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 ×(35年 − 20年)= 1,850万円
- 課税退職所得金額 =(2,000万円 − 1,850万円)× 1/2 = 75万円
退職金そのものは2,000万円ですが、課税対象となるのはわずか75万円まで圧縮されることがわかります。これに所得税・住民税がかかる形になるため、税負担はかなり軽くなります。これが「退職一時金は税制上有利」と言われる理由です。
年金で受け取る場合|公的年金等控除と他所得との合算
退職金を年金として受け取る場合は、扱いが大きく変わります。年金として受け取る分は、「雑所得」として課税されます。
雑所得には、公的年金等控除が適用されます。65歳以上の場合、公的年金等の収入が110万円までは課税されない仕組みになっています(2026年5月時点の制度)。一見、こちらも控除枠があってお得に見えるかもしれません。
ただし、注意が必要なのは、他の所得(会社の給与、老齢年金など)と合算して所得税が計算される点です。再雇用で働きながら退職金を年金で受け取る場合、給与と老齢年金と退職金の年金部分がすべて合算されるため、結果として税負担が一時金より重くなりやすい、という構造があります。
ただし、年金受け取りには、運用利息で総額が増えるという別のメリットもあります。「税負担」と「総受取額」の両面を比較して考える必要があるところです。
🆕 2026年1月の改正|iDeCoとの間隔が10年に
退職金とiDeCo(個人型確定拠出年金)の両方を一時金で受け取る場合、両方で退職所得控除をフルに使うために、受け取り時期の間隔をどれくらい空ける必要があるかというルールがあります。このルールが、2026年1月から変わりました。
- 2025年12月まで:5年ルール(iDeCoの一時金を先に受け取り、5年以上空けて会社の退職金を受け取れば、両方とも控除をフル活用できた)
- 2026年1月1日以降:10年ルール(調整期間が10年に延長)
具体的には、次のような違いが出てきます。
- 60歳でiDeCo→65歳で会社の退職金:以前は5年空いていればOKだったが、改正後は10年に満たないため、退職所得控除が減額される
- 60歳でiDeCo→70歳で会社の退職金:10年空くため、両方ともフル活用できる
iDeCoと会社の退職金の両方がある方は、受け取り時期の組み立て方が、税負担に大きく影響することになります。具体的な計算や判断は、ご自身のケースに応じて税理士に確認することをおすすめします。
自分にとっての受け取り方を考える|3つの判断軸
ここまで整理してきた制度のタイプと税金の話を踏まえて、「では自分はどう受け取るのがよいか」を考えるための判断軸を、3つに整理してみます。どれが正解ということはなく、自分の状況に応じて軸の重みづけが変わってきます。
判断軸① 退職所得控除を使い切れるか
1つ目は、退職所得控除を使い切れるかどうかです。先ほどの計算例のように、勤続年数が長ければ長いほど、退職所得控除の枠は大きくなります。退職金の金額が控除枠の範囲内、または少しはみ出る程度であれば、一時金で受け取る方が税負担を抑えやすいことになります。
逆に、退職金の額が大きく控除枠を超える場合は、超過分について「一時金として一気に課税される」より、「年金として複数年に分けて課税される」方が、年あたりの税負担を平準化できる可能性もあります。
判断軸② 公的年金との合算で税負担はどうなるか
2つ目は、老齢年金など他の所得との合算による税負担です。退職金を年金で受け取ると雑所得になり、老齢年金や再雇用の給与と合算されます。
例えば、再雇用で給与を受け取りながら、老齢年金も受給し、さらに退職金も年金で受け取る場合、合算された所得に対して累進課税がかかることになります。「総所得が増えると税率が上がる」という所得税の仕組みを踏まえて、受け取り時期と方法を組み合わせることがポイントになります。
判断軸③ 自分の運用・取り崩しスキル
3つ目は、一時金で受け取った後の管理を自分でできるかどうかです。一時金で受け取れば自由度が高い一方で、その後の置き場や取り崩しのペースは、自分で計画を立てることになります。
「まとまった金額を自分で管理する自信がある」という方には一時金が向いていますが、「定期的に決まった額が入ってくる方が安心」という方には、年金受け取りや併用が向いている場合もあります。
専門家への相談を組み合わせる
ここまで整理してきた判断軸はあくまで考え方の枠組みであり、実際の最適解は人それぞれです。会社の人事担当者には制度の詳細を、税理士には個別の税負担シミュレーションを確認するのが確実な進め方です。退職金の受け取り方は、原則として一度決めると変更が難しいケースが多いため、判断する前の確認が特に大切になります。
まとめ|まずは会社の制度を確認することから
退職金の受け取り方について、3つのタイプと税金の整理を見てきました。
- タイプ①:退職一時金制度(一括で受け取るタイプ/中小企業に多い)
- タイプ②:企業年金制度(一時金・年金・併用から選べる/大企業に多い)
- タイプ③:中小企業退職金共済(中退共)(国の制度を活用/中小企業に多い)
そして、税金の面では「退職所得控除と1/2課税の優遇が大きい一時金」と「公的年金等控除があるが他所得と合算される年金」という違いがあり、2026年1月の改正でiDeCoとの調整期間が10年になったことも押さえておきたいポイントです。
退職金の受け取り方は、その後の家計や老後資金の組み立てに大きく影響するテーマです。それでも、最初の一歩は「自分の会社の退職金制度はどのタイプか」を確認することから始まります。制度がわからないままでは、判断軸を当てはめようがないからです。就業規則や退職金規程を一度開いてみる、人事担当者に話を聞いてみる——そういう小さな確認から、自分なりの組み立てが見えてくるのだと思います。
このシリーズでは、これから「老齢年金をいつからもらうか(繰上げ・繰下げ)」「在職老齢年金の仕組み」「退職後の健康保険」など、退職金とあわせて考えたい制度のテーマも整理していく予定です。同じように再雇用や定年を前にして向き合っている方の参考になれば嬉しく思います。
シリーズ次回は、年金の受給開始は何歳が得?|繰上げ・繰下げと損益分岐点を公開しました。退職金の受け取り方とあわせて、老後の収入の組み立てを考えるうえで欠かせないテーマです。60〜75歳のどのタイミングで受給を始めるかで、生涯の受給額や手取りはどう変わるのか——損益分岐点と判断軸を整理しています。
注意: 本記事は一般的な制度の概要をもとに書いています。退職金制度の詳細や受け取り方の選択肢は、会社の規約や個人の状況によって異なります。また、税制は今後改正される可能性があります(本記事は2026年5月時点の情報に基づきます)。具体的な判断にあたっては、会社の人事担当者や税理士など、それぞれの分野の専門家への確認をおすすめします。
この記事を書いた人: カズ|60代前半・茨城県南在住・現在再雇用中。事務・管理・総務職を長年経験し、人事業務にも携わっていました。定年後の働き方について、同世代に向けてリアルな情報を発信しています。


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