このブログの「お金・年金」シリーズも、今回で最終回です。
これまで、退職金の受け取り方、年金をいつから受け取るか、働きながら年金をもらう仕組み、退職後の健康保険——と、ひとつずつ制度の話をしてきました。どれも、定年前後の家計に関わる大事なテーマです。
ただ、制度をひとつずつ理解しても、「で、結局わが家の家計はどうすればいいのか」という問いには、まだ答えが出きっていない気がしていました。
私自身、60歳の定年を機に再雇用となり、収入は現役のころの50万円台から半分以下になりました。数字の上では「下がる」とわかっていたのに、いざその中で暮らしてみると、思っていた以上に落ち着かない時期がありました。
最終回となる今回は、制度の解説ではなく、シリーズで見てきたことを「自分の家計にどうつなげるか」という視点で整理してみます。同じように収入の変化を控えている方、あるいはすでにその中にいる方の、考え方の手がかりになればうれしいです。
「収入が減る」と頭でわかっていても、不安は消えなかった
再雇用で給与が下がることは、制度として知っていました。同じ職場の先輩たちを見てきましたし、自分の番が来たときも、おおよその金額は聞いていました。実際にどのくらい下がったかは再雇用の給与は激減する?60代前半・現役会社員が手取りを公開に書いたとおりですが、数字を聞いていたことと、その金額で実際に暮らすことは、やはり別物でした。
手取りが減った通帳を見ると、なんとも落ち着かない気持ちになりました。「これで本当に大丈夫なのか」という、ぼんやりとした不安がずっと胸の奥にあったのです。
しばらくして気づいたのは、その不安の正体は「お金が足りない」ことそのものではなく、「この先の見通しが立たない」ことだったということです。
毎月いくら入ってきて、いくら出ていくのか。退職金はいつ、どういう形で受け取るのか。年金はいつから、どのくらいもらえそうなのか。健康保険はどうなるのか。——ひとつひとつが漠然としたまま、頭の中にバラバラに置かれていました。だから、不安だけが大きく感じられたのだと思います。
このシリーズで制度をひとつずつ調べていく中で、不安が「消えた」わけではありません。ただ、不安の質は確かに変わりました。「得体の知れない不安」から、「ここはこう、あそこはこう、と説明できる心配ごと」に変わっていったのです。
お金・年金シリーズで分かったことを「時間軸」で整理する
不安の質が変わったきっかけは、調べたことを「時間軸」で並べ直してみたことでした。
退職金、年金、健康保険——制度ごとにバラバラに考えていると、全体像がつかめません。そうではなく、「今」「退職した直後」「年金が中心になってから」という3つの時間で区切って整理すると、自分の家計が時間とともにどう動いていくのかが、ぐっと見えやすくなりました。
今(在職中)の家計 — 給与と、年金との関係
まず「今」。再雇用で働いている間の家計です。
収入の柱は給与です。再雇用で給与が下がった場合、条件によっては「高年齢雇用継続給付」という給付の対象になることもあるので、自分が対象になるかどうかは確かめておきたいところです(→高年齢雇用継続給付とは?|対象・計算・2025年改正をわかりやすく)。
もうひとつ、給与と関わってくるのが、働きながら年金を受け取る場合の「在職老齢年金」という仕組みです。収入が一定額を超えると年金の一部が止まることがある制度ですが、2026年の改正もあり、再雇用で働く多くの世帯は、それほど神経質にならなくてよさそうだとわかりました。このあたりは働きながら年金は減る?|在職老齢年金と2026年改正で変わったことで整理しています。
「今」の段階でやっておきたいのは、給与という収入の柱が、いつまで、どのくらい続くのかを確かめておくことだと思います。
退職した直後の家計 — 退職金と、健康保険の切り替え
次が「退職した直後」。給与という柱がなくなり、家計が大きく動くタイミングです。
ここで関わるのが退職金です。受け取り方によって税金の扱いが変わるため、「一時金で受け取るのか、年金形式か、その併用か」は早めに考えておきたいところでした。詳しくは退職金はどう受け取る?|3つのタイプと税金の整理に書きました。
もうひとつが健康保険です。退職すると勤め先の健康保険を抜けることになり、任意継続・国民健康保険・家族の被扶養者という選択肢から選ぶことになります。保険料が変わるので、家計への影響も小さくありません。退職後の健康保険、どう選ぶ?|3つの選択肢と2026年改正の影響で3つの選択肢を整理しています。
年金が中心になってからの家計 — 受給開始の時期
最後が「年金が中心になってから」。働く収入がなくなり、年金が家計の柱になる時期です。
ここでの大きな判断が、年金をいつから受け取るかです。受給開始を早める「繰上げ」、遅らせる「繰下げ」で、毎月受け取る金額が変わります。何歳まで働くか、貯えがどのくらいあるか、健康状態はどうか——人によって答えが違う部分です。年金の受給開始は何歳が得?|繰上げ・繰下げと損益分岐点で考え方を整理しました。
この3つの時間軸で並べてみると、「退職金や年金は、それぞれ別の話」ではなく、「ひとつながりの家計の、時期ごとの登場人物」なのだとわかってきます。
私が「月単位の家計」から「長い目線の家計」に変えた話
恥ずかしい話ですが、収入が減ったばかりのころの私は、毎月の通帳の残高に一喜一憂していました。
給与が入る日に少しほっとして、引き落としが続くと気持ちが重くなる。その繰り返しでした。月という短い単位でしか家計を見ていなかったので、いつも目の前の数字に振り回されていたのだと思います。
変わったきっかけは、このシリーズのために制度を調べはじめたことでした。退職金や年金のことを調べるうちに、「これは月単位ではなく、もっと長い時間で考えるお金だ」と気づいたのです。
そこで、紙に簡単な表を書いてみました。横軸に「今」「数年後」「年金が中心になるころ」と時間を取り、それぞれの時期に収入がどこから入り、大きな支出がいつごろありそうかを、ざっくり書き込んでいきました。きれいな家計簿でも、細かいシミュレーションでもありません。手書きの、おおまかなメモです。
それでも、書き出してみると気持ちがずいぶん楽になりました。頭の中だけでぼんやり不安に思っていたものが、紙の上に「見えるもの」として並んだからだと思います。月単位で一喜一憂する代わりに、長い目線で「だいたいこういう流れになりそうだ」と眺められるようになりました。
収入が減った家計で、私が優先した3つの考え方
長い目線で家計を眺められるようになってから、私が「ここは大事にしよう」と思うようになった考え方が3つあります。家計の正解は人それぞれですが、ひとつの例として書いておきます。
①「いつ・いくら」が読めるお金を増やす
ひとつめは、「いつ、いくら入ってくるか・出ていくか」が読めるお金を、できるだけ増やすという考え方です。
不安が大きかったのは、見通しが立たないからでした。逆に言えば、見通せる部分が増えれば、不安はその分だけ小さくなります。
たとえば、退職金をいつ・どう受け取るかを早めに決めておく。年金の受給開始の時期について、自分なりの方針を持っておく。それだけで、「この時期にはこれくらい」という見当がつく部分が増えていきます。金額そのものを増やすのは簡単ではありませんが、「読める部分を増やす」ことは、調べて決めるだけでもできることでした。
②必ず出ていく固定費から先に手をつける
ふたつめは、見直すなら固定費から、という考え方です。
収入が減ったとき、まず家計の固定費を見直したことは、再雇用で給与が下がった後|家計を見直して気づいた3つのことに書いたとおりです。ここでは繰り返しませんが、考え方として大事だと感じたのは、「毎月、何もしなくても出ていくお金」から手をつけたほうが、効果が長く続くということでした。
食費や交際費のような変動費を切り詰めるのは、気持ちの面でも続きにくいものです。それよりも、一度見直せばずっと効いてくる固定費のほうが、収入が減った家計とは相性がよいと感じています。
③先送りしていい支出と、してはいけない支出を分ける
みっつめは、支出を「先送りしていいもの」と「してはいけないもの」に分けて考える、ということです。
収入が減ると、つい何でも「あとにしよう」と先送りしたくなります。ですが、先送りしてよいものと、よくないものがあると感じました。
たとえば、買い替えや趣味の出費は、時期をずらしても大きな問題にはなりにくいものです。一方で、健康に関わることや、家の傷んだ部分の修理のように、先送りするとあとでもっと大きな出費になりかねないものもあります。「節約」とひとくくりにせず、その支出を遅らせると後でどうなるかまで考えて分けるようにしています。
「全部を最適化しよう」としなくていい
ここまで「整理する」「考え方を持つ」と書いてきましたが、ひとつ申し添えておきたいことがあります。それは、家計のすべてを完璧に最適化しようとしなくていい、ということです。
制度を調べはじめると、「いちばん得な受け取り方は」「最適なタイミングは」と、つい正解を求めたくなります。ですが、退職金にしても年金にしても、何歳まで生きるか、これからの暮らし方がどうなるか——先のことが確実にはわからない以上、「完璧な最適解」を出すことは、そもそも難しいのだと思います。
私が大事だと思っているのは、完璧を目指すことよりも、「知らないまま、損をしない」ことです。制度があることを知らずに手続きをしそびれたり、選べたはずの選択肢に気づかなかったり——そういう「知らなかったことによる損」を避けられれば、それで十分に意味があります。
シリーズを通して制度を調べてきたのも、最適解を見つけるためというより、「知らないことで損をしないため」だったのだと、振り返って思います。
迷ったときの相談先 — 内容で窓口を使い分ける
とはいえ、自分で調べるだけでは判断しきれないこともあります。そんなときに知っておきたいのが、内容によって相談する窓口が違う、ということです。
私が整理しているのは、おおよそ次のような分け方です。
- 年金のこと(受給の見込み額、受け取り開始の時期など)…… お近くの年金事務所
- 退職金にかかる税金のこと …… 税理士
- 健康保険のこと …… 任意継続なら加入していた健保組合や協会けんぽ、国民健康保険ならお住まいの市区町村の窓口、家族の被扶養者になる場合はその家族の勤め先の窓口
- 再雇用や労働条件のこと …… 勤め先の人事担当者や、社会保険労務士
「お金のこと」とひとまとめにして誰かに相談しようとすると、かえって遠回りになることがあります。それよりも、「これは年金の話」「これは税金の話」と中身で切り分けて、それぞれの専門の窓口に聞くほうが、結果的に確かな答えにたどり着きやすいと感じています。
まとめ|収入が減ってからの家計は「不安」ではなく「設計」で
「お金・年金」シリーズの最終回として、収入が減ってからの家計の考え方を書いてきました。最後に、シリーズ全体を振り返っておきます。
- 再雇用で給与が下がった後|家計を見直して気づいた3つのこと — 収入が減った直後の、固定費を中心とした家計の見直し
- 退職金はどう受け取る?|3つのタイプと税金の整理 — 一時金・年金・併用と、税金の考え方
- 年金の受給開始は何歳が得?|繰上げ・繰下げと損益分岐点 — 受け取り開始の時期の選び方
- 働きながら年金は減る?|在職老齢年金と2026年改正で変わったこと — 在職老齢年金の仕組みと2026年の改正
- 退職後の健康保険、どう選ぶ?|3つの選択肢と2026年改正の影響 — 任意継続・国保・被扶養者の選択肢
ひとつずつは別々の制度ですが、「時間軸」で並べ直してみると、ひとつながりの家計の流れとして見えてきます。
収入が減ることそのものは、避けられない場合も多いと思います。それでも、その中身を知り、自分の家計の見通しを描いておけば、「得体の知れない不安」は「向き合える設計」に変えていける——シリーズを書き終えた今、私はそう感じています。
同じ時期を迎える方の、肩の力を少し抜く手がかりになれば幸いです。
注意:本記事は私の個人的な体験と、一般的な制度の情報をもとに書いています。退職金・年金・健康保険などに関する判断は、個人の状況によって異なる場合があります。詳細については、年金事務所・税理士・お住まいの市区町村の窓口・社会保険労務士など、内容に応じた窓口への確認をおすすめします。


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