60代の強みとは何か|自分が思うことと、企業が見ること

デスクで書類を読み込むシニア男性 キャリア戦略

前回の記事で書いた「スキル棚卸し」を一通り終えると、自分の手元にあるものがだんだん見えてきます。これまで何をやってきたのか、何が身についたのか、何が好きで何が苦手なのか。書き出してみると、思ったより自分の中に積み上がっているものがあることに気づきます。

けれど、そこで次に出てくる問いがあります。「この中に、本当に『強み』と呼べるものはあるのか」。書き出した内容を眺めても、それが他人から見て価値のあるものなのか、自分一人ではなかなか判断がつきません。

そもそも「強み」は、自分の中だけで決められるものなのでしょうか。それとも、企業や周囲から評価されて初めて成立するものなのでしょうか。本記事では、60代の強みを「自分が思うこと」と「企業が見ること」、この両輪から考え直してみたいと思います。

※棚卸しの手順そのものについては、スキル棚卸しのやり方|50代・60代が「次」を考える前にやる7ステップを先にお読みいただくと、本記事の話が地続きでつながります。

60代が「強み」を考えるときに陥りやすい3つの罠

「強み」を考え始めるとき、私たち60代がつい踏み外してしまう典型的なパターンが3つあります。まずはここを押さえておくと、後の整理が楽になります。

罠①:資格や役職で語ろうとしてしまう

「○○検定保有」「○○部長を10年」のように、肩書きの一行で強みを表現したくなる気持ちはよく分かります。けれど、前回の記事でも触れたとおり、資格欄や経歴欄に収まる情報は、自分の中身のごく一部にすぎません。資格を取った後にどう使ってきたか、その役職で何を判断してきたか。本当に価値があるのは、肩書きの隙間に積もった経験のほうだったりします。

罠②:他者からの評価を待ってしまう

60代になると、若い頃と違って「褒められる機会」自体が減っていきます。職場でも家庭でも、評価のフィードバックが薄くなる。すると私たちは、「評価されていない=強みがない」と無意識に結論づけてしまいがちです。けれど、それは少し違います。評価される機会の減少と、強みの有無は別の話です。

罠③:若い時代の物差しで自分を測る

「若い頃ならこれくらい出来たのに」「30代の自分のほうが…」と昔の自分を基準にすると、必ず減点法になります。けれど、60代には60代の物差しがあります。瞬発力ではなく持久力、新しいことへの突進力ではなく難しい局面の整理力。経験を積んだ後にしか見えない強みの軸があるのです。事務管理総務職を長く続けてきた経験からも、若い頃には気づけなかった種類の力が、確かにあとから育ってきた実感があります。

60代の強み3層 — 自分の内側から見えるもの

3つの罠を避けたうえで、自分の中にある強みを整理する枠組みとして、本記事では3つの層に分けて考えてみます。これは前回ご紹介した7ステップで書き出した内容を、別の角度から並べ直す作業でもあります。

第1層:専門性 — 蓄積してきた知識と技能

第1層は、業界・職種の中で長年扱ってきた専門領域です。会計、法務、人事、営業、技術、医療、教育——どの分野であっても、20年30年と関わり続けてきた中身には、その人にしかない厚みがあります。「何度も似た案件に対処してきた」「社内で頼られてきた領域がある」と言えれば、それは立派な第1層の専門性です。

前回の記事のステップ3(身についたスキル)に書き出した内容の多くは、この第1層に該当します。事務管理総務職の40年経験から考えると、契約・規程・人事制度といった領域は、本を読んだだけでは決して身につかなかった種類の知識でした。実務の積み重ねがあって初めて、判断のスピードと精度が出るようになる。それが第1層の正体だと思います。

第2層:ポータブルスキル — 持ち運べる汎用の力

第2層は、業種や職種が変わっても持ち運べる力です。具体的には、調整力、段取り力、文書作成力、利害関係者調整、プロセス設計力など。「ポータブルスキル」とは、字義どおり「持ち運べるスキル」という意味で、職場が変わっても、職種が変わっても、自分とともに移動する力のことです。

前回の記事のステップ6(ポータブルスキル整理)で書き出した内容が、ここに集まってきます。やっかいなのは、第2層の力は自分では「当たり前」と思っているものほど、外からは見えにくいということです。長く同じ環境にいると、自分が日常的にやっていることの価値に気づきにくくなります。

第3層:経験から育った「目」 — 60代ならではの視座

第3層は、若い人にはまだ持てない種類の視座です。例えば、現場の手触りから物事を見る目。サービスを売る側と受ける側の両方を見る目。若手と中堅、社内と社外、短期と長期、両側を行き来する目。長期戦への忍耐や、修羅場をくぐった後に残る冷静さ。未解決の案件を「未解決のまま」きちんと申し送る誠実さ。これらはすべて、時間をかけて経験を積んだあとにしか育たない力です。

前回の記事の後半で触れた「降格に見えた変化が、実は手元を取り戻す経験だった」という話も、ここに通じます。立場や働き方の比重が変わる局面は、当時はうまく受け止められないこともあるのですが、後から振り返ると、その渦中で見えていた景色のなかに「60代ならではの強み」の原石が含まれていたと気づくことがあるのです。

企業から見たとき、これら3層はどう評価されるか

ここで視点を切り替えます。3層を「企業はどう見ているのか」という外側の視点から眺めると、別の景色が見えてきます。

まず、雇用の場そのものについて。厚生労働省が2025年12月に公表した令和7年「高年齢者雇用状況等報告」によると、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%、そのうち継続雇用制度の導入が65.1%、定年の引上げが31.0%でした。つまり、60代前半が働き続ける場そのものは、ほぼすべての企業で何らかの形で用意されている、ということになります。

では、企業側はシニアに何を期待しているのか。株式会社マイナビが2025年7月に公表した「非正規雇用のシニア採用に関する企業調査(2025年)」によれば、今後65歳以上のシニアを採用したい企業が約6割。採用したい理由として、「人手不足の解消(48.9%)」に続き、「専門性が高い・経験が豊富(34.4%)」「採用基準に年齢は関係ない(24.5%)」が挙がっています。「専門性と経験」は、人手不足とは別の軸として、明確に企業から評価されているわけです。

これを3層で読み直すと、どうなるでしょうか。

第1層(専門性)は、企業から見て最も分かりやすい層です。資格・経歴・実務年数で可視化されやすく、採用判断の材料として伝わりやすい。マイナビ調査で挙がった「専門性が高い・経験が豊富」という評価軸が、ここに直接ぶつかります。

第3層(経験から育った「目」)は、内側で語られる繊細な強みではありますが、「修羅場耐性がある」「長期で物事を見られる」といった表現に翻訳すれば、外側にも伝わる強みです。特に、組織変革や事業承継の局面では、第3層の価値が前面に出てくる場面もあります。

第2層(ポータブルスキル)は、最もズレが生じやすい層です。本人は「誰でもやっていること」と思っている調整力や段取り力が、企業視点では希少な力として評価されることもあれば、逆に本人が「強みです」と言っているものが、外からは抽象的すぎて伝わらないこともあります。こうしてデータを並べてみると、企業が見ているものと、私たち本人が思っているものとは、必ずしも同じ角度ではないことが感じられます。

両者が一致するところ、ズレるところ

「自分が思うこと」と「企業が見ること」を並べたとき、必ず一致するわけでもなく、必ずズレるわけでもありません。一致しやすい領域と、ズレやすい領域があります。

一致しやすいのは、第1層の専門性と、第3層の一部です。専門知識は資格・経歴で可視化されますし、「修羅場耐性」「長期視座」のような表現は、人事担当者にも伝わりやすい言葉です。「○○の経験があります」と一行で言えるものは、内と外でズレが小さくなります。

ズレやすいのは、第2層と、第3層の繊細な部分です。「サービスの両側を見る目」「対立する利害を3者でまとめた経験」のような強みは、言葉にしないと相手の頭の中に像が結びません。社内だけで通じる言葉で覚えてきた力——「あの会議の取りまとめが得意」「あの種の文書なら早い」——は、外部に翻訳しないと意味が伝わらないのです。

このズレを埋める作業こそが、「強みの言語化」と呼ばれる作業の中身だと思います。強みは、ゼロから探すものではありません。すでに手元にあるものを、内側でも外側でも通じる言葉に翻訳していく。その作業を経て初めて、「自分が思うこと」と「企業が見ること」が同じテーブルに乗ります。事務管理総務職の経験で言えば、自分では当たり前にやっていた「複数部署の利害調整」が、外から見ると一つの専門能力なのだと気づくまでに、何年もかかりました。

強みを言語化するときの3つの注意点

では、ズレを埋めるための言語化は、どのように進めればよいのでしょうか。3つの注意点を挙げます。

注意点①:抽象表現で逃げない

「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」「調整力」——これらの言葉は便利ですが、便利すぎて中身が伝わりません。具体的な行動や場面に落とすことが大切です。例えば「対立する複数部署の利害を3週間で調整した経験」「3名以上の部門長の意見をまとめて1枚の合意書にした経験」のように、行動と場面が見える形にする。これだけで、相手の頭に映像が浮かびやすくなります。

注意点②:過去の役職・組織に依存させない

「○○部の部長として」という表現は分かりやすいのですが、役職や組織を離れた瞬間に通じなくなります。「○○の場面で○○した」という、行動と能力に絞った表現に翻訳しておくと、再雇用先や転職先でも通じる強みになります。一般的には、役職を離れても残るものこそが、本当の意味でのポータブルスキルだといえます。

注意点③:他者が評価しやすい言葉に翻訳する

社内だけで通じる言い回しや業界用語は、外部に出ると通じません。社内では当然のように使っていた言葉も、人事担当者や転職エージェントに伝えるときは、一般的な表現に置き換える必要があります。可能であれば、結果(数字・規模・期間)を添えると、強みの輪郭がはっきりします。「年に○件の案件を処理」「○名の部署で○年運用」のように。自分の中で当たり前になっていた数字も、外から見れば貴重な情報なのです。

まとめ:強みは、内と外を照らし合わせる作業から見つかる

60代の強みは、内側からの自覚と、外側からの評価、その両輪で見つかります。どちらか一方だけでは語り尽くせません。自分の中で「これかもしれない」と思ったものを、外側の言葉で語り直してみる。逆に、企業や周囲から評価されたものを、自分の経験のどこから来ているのかをたどってみる。この往復のなかで、強みの輪郭がだんだんはっきりしてきます。

そして、強みは「ゼロから探す」ものではありません。すでに手元にあるものを、別の言葉で語り直す「再発見」の作業です。事務管理総務職の40年経験から振り返っても、新しい強みを獲得したというよりは、すでにあった力に名前をつけ直してきた感覚のほうが強くあります。

60代だからこそ語れる、経験から育った「目」。これは若い人と同じ尺度では測れない、私たちの世代ならではの価値です。60歳からの「働き方改革」とは何か|続けるうちに見えてきたことでも書きましたが、続けながら気づく内向きの変化のなかにも、強みの種は確かにあります。

では、その強みをどう「次」の選択肢に結びつけていくのか。再雇用か転職か|定年前に直面した私の決断基準で書いた判断軸とも重なりますが、強みが見えてきたあとに来るのは、「それをどこで、どう使うか」という別の問いです。本記事はそこへの入り口でもあります。

本記事についての注意

本記事は私自身の経験と、一般的なキャリア論・調査データをもとに書いています。実際の採用評価や働き方の判断は、企業や個人の状況によって異なります。具体的な判断にあたっては、信頼できる人事担当者や転職エージェント、キャリアコンサルタントなどへの相談もご検討ください。

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