書類選考を通過すると、いよいよ面接です。準備の最後の関門であり、多くの方がもっとも緊張する場面かもしれません。
面接の前夜、「何を聞かれるのだろう」「うまく答えられるだろうか」と、なかなか寝つけない——そんな経験は、年齢を重ねた今でも、決して他人事ではないと思います。その不安は、よく分かります。
ただ、私はこれまで仕事の中で、面接で質問する側に立つ経験を何度かしてきました。その立場から振り返ると、面接で大切なのは「立派な答えを暗記すること」ではないと、はっきり言えます。
この記事では、よく聞かれる5つの質問について、面接官が「なぜそれを聞くのか」という意図から解説します。意図が分かれば、答えは暗記しなくても、自分の言葉で組み立てられるようになります。
なお、この記事は転職活動の準備には順序があるという記事の続きにあたります。準備全体の流れを確認したい方は、先にそちらを読んでいただくと、面接が「準備の最後の一歩」だと位置づけやすくなります。
面接官は「正解の答え」を探していない
最初に、いちばん大事なことをお伝えします。面接官は、模範解答のような「正解」を探しているわけではありません。
私自身の実感ですが、面接の持ち時間は一人あたり10分程度ということも珍しくありません。その短い時間で、応募者の能力や人柄を正確に測りきることは、正直なところ難しいのです。点数をつけても、応募者の間で大きな差がつかないことのほうが多いくらいでした。
では、面接官は何を見ているのか。煎じ詰めると、次の2つです。
ひとつは、この人はうちの職場に馴染んで、気持ちよく働いてくれそうか。もうひとつは、この人は、自分の経験を具体的に語れるか。この2点に尽きます。
この前提が分かると、対策の方向が見えてきます。流暢な模範解答を暗記するより、「質問の意図」を理解して、自分の経験から答えを組み立てるほうが、ずっと面接官の心に届くのです。
よく聞かれる5つの質問と、その「意図」
ここからは、シニア世代の面接でよく聞かれる5つの質問を取り上げます。それぞれ「面接官の意図 → 答え方の考え方 → ありがちなNG」の順で見ていきましょう。
Q1.「なぜ今、転職しようと思ったのですか?」
面接官の意図: 転職の動機が前向きなものか、それとも「今がつらいから逃げたい」という後ろ向きなものかを確かめています。後ろ向きの理由が透けて見えると、「うちでも同じ理由で辞めるのでは」と不安に思われます。
質問する側にいた頃の実感ですが、この質問は面接の入り口でほぼ必ず聞かれます。当たり障りのない質問に見えて、ここで応募者の「軸」が見えてしまうのです。
答え方の考え方: 「これまでの経験を、新しい環境でこう活かしたい」という前向きな軸で語りましょう。前職への不満は、たとえ事実でも、できるだけ口にしないほうが無難です。
ありがちなNG: 「前の職場が合わなかった」「人間関係が嫌で」といった不満が中心になってしまうこと。
Q2.「定年まで勤め上げる選択もあったと思いますが、なぜ転職を?」
面接官の意図: これは年齢が上の応募者ならではの質問です。安定した立場を手放してまで動く理由を知りたい、という気持ちと、「うちは腰掛けのつもりではないか」という確認の両方が込められています。
答え方の考え方: 「残りの仕事人生を、より自分の経験が活きる場所で過ごしたい」といった、納得感のある理由を用意しておきましょう。
ありがちなNG: 理由が曖昧で、「なんとなく」「周りが動いていたので」と聞こえてしまうこと。面接官は、深掘りすればすぐに動機の本気度を見抜きます。
Q3.「うちの会社で、どんな貢献ができますか?」
面接官の意図: これは最重要の質問です。応募者の経験が、自社の仕事にどう結びつくのかを具体的に知りたいのです。
私が面接官として「この人はいいな」と感じたのは、まさにこの質問に具体的に答えられる人でした。抽象的な意気込みではなく、「こういう場面でお役に立てます」と地に足のついた話ができる人は、印象に強く残りました。
答え方の考え方: ここで効くのが、職務経歴書の書き方の記事でも触れた「経験の翻訳」です。前職での経験をそのまま並べるのではなく、「その経験が御社のこの場面で役立ちます」という形に翻訳して語りましょう。
ありがちなNG: 「何でもやります」「頑張ります」という意気込みだけで、具体性がないこと。
Q4.「給与が下がる可能性もありますが、大丈夫ですか?」
面接官の意図: シニア採用では、待遇が前職より下がるケースが少なくありません。あとで「こんなはずではなかった」と不満になられては困るので、納得して入ってくれるかを確かめています。
答え方の考え方: 待遇面を理解したうえで応募していることを、落ち着いて伝えましょう。「金額より、経験を活かせることを大切にしたい」という姿勢が伝わると安心されます。
ありがちなNG: お金にこだわらない姿勢を見せようと無理をして、あとで条件交渉でもめること。正直に、しかし前向きに。
Q5.「年下の上司や、新しいやり方に抵抗はありませんか?」
面接官の意図: 実はこれが、シニア採用で面接官がもっとも本気で確かめたいことかもしれません。経験豊富な方ほど、年下からの指示や、慣れない仕事の進め方、新しい道具に戸惑い、馴染めないケースがあるからです。
少し正直な話をします。私が人手の足りない職場で採用に関わったとき、「年下の職員に指示されても大丈夫か」「新しい道具の操作は問題ないか」を必ず確認していました。面接では皆さん「大丈夫です」と答えます。ところが実際に入ってみると、馴染めずに苦労される方も、残念ながら一定数いらっしゃいました。だからこそ面接官は、この点を本気で見ているのです。
答え方の考え方: 「これまでのやり方にこだわらず、新しい環境から学ぶ姿勢でいます」という柔軟さを、具体的なエピソードを添えて伝えると説得力が増します。
ありがちなNG: 「昔はこうだった」「私のやり方では」と、過去の経験を基準に語ってしまうこと。本人に悪気はなくても、面接官には「馴染みにくそうだ」と映ります。
結局、「具体的に話せる人」が信頼される
5つの質問を見てきて、共通する一本の軸に気づかれたかもしれません。面接官が信頼するのは、自分の経験を具体的に、筋道立てて話せる人です。
これは私の実感だけではありません。厚生労働省がミドル層のキャリアチェンジ支援のためにまとめた資料(「ミドル層のキャリアチェンジにおける支援技法」)でも、採用で重視されるのは専門知識だけでなく、職種が変わっても通用する「仕事の進め方」や「人との関わり方」といった、いわばポータブルスキルだと整理されています。このポータブルスキルについては持ち運べる力をまとめた記事で詳しく書きました。面接官が質問を通して探ろうとしているのは、まさにこの部分なのです。
質問する側に立っていた頃、私がいちばん「この人はいいな」と感じたのは、実務で苦労した経験を、具体的に語れる人でした。「こういう問題が起きて、こう考えて、こう解決した」——そういう話には、その人が本当に現場で働いてきた手応えがあり、信頼できると感じたのです。
逆に、どれだけ立派な志望動機を述べても、中身が抽象的だと印象に残りません。「頑張ります」「貢献します」は、誰でも言えてしまうからです。
「具体的に話せる」は準備で作れる
ここで朗報があります。「具体的に話せるかどうか」は、生まれ持った才能ではなく、準備で改善できるということです。次の3ステップで、答えの具体性は見違えるほど上がります。
ステップ1: これまでの仕事を、ざっと振り返る。 担当してきた業務を、思いつくまま書き出してみます。職務経歴書を作っていれば、それがそのまま材料になります。
ステップ2:「苦労したこと」を2〜3つ選ぶ。 その中から、印象に残っている苦労や困りごとを選びます。大きな成果でなくて構いません。むしろ、日々の地道な工夫のほうが、人柄が伝わります。
ステップ3:「問題→工夫→結果」の3文で語れるようにする。 「こういう問題があった」「そこでこう工夫した」「その結果こうなった」。この3文の形にしておけば、面接でどんな聞かれ方をしても、落ち着いて具体的に答えられます。
この準備をしておくだけで、Q3のような「貢献できますか」という質問にも、地に足のついた答えが返せるようになります。
やりがちな3つの失敗
最後に、シニア世代の面接で陥りやすい失敗を3つ挙げておきます。
1. 経験を盛りすぎる。 立派に見せたい気持ちは分かりますが、面接官は話を深掘りします。盛った部分は、具体的に問われたときにすぐ分かってしまいます。職務経歴書のときと同じで、正直に整理されているほうが信頼されます。
2. 謙遜しすぎる。 逆に、遠慮して自分の経験を小さく語ってしまうのも、もったいない失敗です。事実を、誇張せず、しかし堂々と伝えましょう。
3. 過去の役職や実績にこだわる。 「以前は管理職で」「昔はこうだった」が前面に出ると、面接官は「新しい環境に馴染みにくそうだ」と感じます。過去は語ってよいのですが、軸足は「これから、この職場で」に置きましょう。
質問する側に回って気づいたこと
最後に、少し個人的な話をさせてください。
私はこれまで、面接で質問する側に立つことが何度かありました。当時は、応募者がどれほど緊張しているか、正直なところ実感できていませんでした。机の向こうに座って、淡々と質問していたのです。
ところが、自分が「もし受ける側に回ったら」と想像してみて、初めて気づきました。あの場の緊張は、想像以上のものだろう、と。何を聞かれるか分からない不安の中で、限られた時間に自分を伝えなければならない。それは、なかなかに過酷なことです。
けれど、だからこそお伝えしたいのです。面接官は、あなたを落とすための粗探しをしているわけではありません。むしろ「この人と一緒に働けたらいいな」と思える人を探しています。質問の意図さえ分かっていれば、身構えすぎる必要はないのです。
肩の力を抜いて、これまで積み重ねてきた経験を、自分の言葉で語ってください。それがいちばん、面接官の心に届きます。
転職活動の全体の流れを振り返りたくなったら、準備と順序をまとめた記事に戻って確認してみてください。準備を整えれば、面接は決して怖い場ではありません。
この連載では今後、転職サイトやエージェントの選び方など、活動を具体的に前へ進めるためのテーマも取り上げていく予定です。


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